片品川中ノ岐沢北岐沢

日程:2005/08/06-07

概要:大清水から林道を徒歩2時間で入渓する片品川中ノ岐沢北岐沢の遡行。沢の途中でビバーク後、小松湿原を経て群馬・栃木県境の登山道に到達。鬼怒沼湿原を抜けて奥鬼怒温泉郷へ下山。

山頂:---

同行:ユウコさん

山行寸描

▲20m大滝。上の画像をクリックすると、片品川中ノ岐沢北岐沢の遡行の概要が見られます。(2005/08/06撮影)
▲上流のナメ。こげ茶色の岩がこの沢のナメの特徴。(2005/08/07撮影)

2005/08/06

△11:45 大清水 → △13:40-14:05 ヘアピンカーブ → △16:05 20m大滝 → △17:00 ビバークポイント

久々のユウコさんとの山行は、癒し系の沢に湿原と温泉を組み合わせたゴージャスなプラン、北岐沢です。東京を早朝に発って沼田でバスに乗り換え、尾瀬沼の入口となる大清水に到着し、ここで昼食をとってから出発しました。

ゲートを越えてしばらくで道は二手に分かれ、我々は右手の林道を進みました。暑い日差しの下、道は中ノ岐沢沿いに緩やかに山の奥へと進んでおり、道端のオダマキをはじめとするさまざまな花、その花のまわりを群れ飛ぶ美しい蝶、たまにちょろちょろと道を横切る蛇などを眺め、時折すれ違う地元の林業関係者の方に挨拶しながらやがて小淵沢にかかる橋を渡り、さらに2回橋を渡ってヘアピンカーブとなる場所に着いて、ここから薮を漕いで入渓です。食料計画はユウコさんに任せていたので、ここで沢装備を身につけるとともに食料を私のリュックサックへ移すことにしましたが、いざユウコさんのリュックサックの中から出てきたのはレトルトのカレーとご飯3食、ラーメン3食、パン1袋、ソーセージ4本、マヨネーズ、バナナ4本、リンゴ4個。きみは「軽量化」という言葉を知らんのか!

……どうにか気を取り直して薮に漕ぎ入ると、道中すれ違った人が言っていた通り道筋らしきものはなく比較的しっかりした薮漕ぎでしたが、それでも10分ほどで何とか無事に沢に降り立ちました。川幅はさして広くありませんが水量はそれなりにあり、しかも水がきれいに澄んでいます。しばらくは水に身体と心を慣れさせながらゆるゆると遡行を続けると、やがて城壁のような岩の中央にどうどうと水を落としている明るい5m滝が現れました。遡行図では右にトラロープがあるように書いてありますがそれらしきものは見当たらず、その代わり左の壁から簡単に登れそうなのでこちら側を直登しました。ユウコさんには念のためにロープを出してここを越えるとすぐに2条滝。右に巻き道がありますが、水流のすぐ右も登れます。だんだん両岸が立ってきて、やがて手前に釜、正面に10mほどの岩壁。その向かって右端に滝が落ちており、そちらに最短で近づこうとすると深い釜を泳がなければならないので左から倒木も使って回り込んで岩壁を登りました。そのすぐ上に出てくるのが4段12m滝で、これは幅・高さともスケールがありなかなか立派です。ユウコさんには右手の巻き道を使うよう指示しましたが、もちろん自分は直登を狙いました。しばらく目でラインを探してから滝の手前の釜をぐるりと左から回り水流の左端に取り付くと、各段は外傾しているもののフリクションが良くてさほどの困難もなく2段目、3段目と位置を上げ、そのまま上へ抜けられました。その先の2m幅広滝を右から越えるとようやく滝は一段落して、そこから先は穏やかな河原歩きとなります。

しばらく進むうちに高い崖が現れるようになり沢筋が蛇行しはじめたと思ったら、ゴルジュ状の奥に大滝が登場しました。高距20mでどうどうと水を落とし、その飛沫がゴルジュの中に充満して寒いくらい。これはさすがに登るのは無理で、しばし鑑賞の後いったん戻って左岸を巻き上がると最初は不鮮明だった踏み跡はやがてはっきりと道をなして、大滝の落ち口の10mほど上を通過していきます。巻き道の途中から見下ろすと大滝の落ち込みはなかなかの迫力で、その向こう(右岸)にも細いながら高距のある支流の滝が落ちているのが見えました。大滝の上の降り口は少々立っているので、ユウコさんのためにも灌木を使って懸垂下降で大滝の落ち口の10mほど上に降りました。

この後も釜をもった小滝や小規模なナメ、左に切り返す斜滝などが断続的に登場し楽しく遡行を続けましたが、そろそろテントを張る場所を見つけなければなりません。記録では二俣の上によい幕営地があるとのことだったのでなんとかそこまでと思いましたが、ユウコさんも疲れてきたようなので左右に目を光らせながらゆっくり歩き続けました。やがて右岸に沢筋から1mほどの高さの手頃な段丘が現れ、登ってみると真っ平らでそれなりに広さもありますし、近くの岩壁に枝沢がしたたり落ちていてきれいな水も手に入ります。焚火の跡もあって幕営地として使われていることがわかったので、安心してここを寝床とすることにしました。

テントを張って今夜はカレーの夕食ですが、残念ながら薪がそれほど豊富ではなく、しかも湿っていたために焚火はちょろちょろとしか燃えませんでした。それでも、おそらくは数km四方に誰もいない沢の中、水の音を聞きながらテントの中でジンの水割りを酌み交わす気分は格別でした。

2005/08/07

△07:05 ビバークポイント → △07:35 二俣 → △09:55 小松湿原 → △10:30-11:00 登山道 → △13:10-40 鬼怒沼湿原避難小屋 → △16:25 奥鬼怒温泉郷

朝食はラーメンにレトルトのチャーシューを入れてずいぶんヘビーでしたがなんとか平らげ、あたりを片付けて遡行再開です。朝日にきらきら光る沢筋をさかのぼっていくときれいな薄茶色のナメが続くようになり、その先に幅広で階段状の5m滝が登場しましたが、ここは右寄りならどこでも楽しく歩いて登れます。この滝の直後に昨日辿り着きたいと思っていた二俣に到着しましたが、結局ここは前日のビバークポイントから30分も先でした。そして記録にあった幕営適地はこの二俣を右に入ってすぐの左岸にあり、こちらもそこそこの広さがある上に下地が乾いていてなかなか快適そうでした。

この先もまったく容易な小滝が釜を伴って次々に現れ、さらに5mの岩壁滝を脆い右壁から越えると赤茶色やこげ茶色のナメが続き水がその上を滑るように流れていて、この辺りが北岐沢の一番楽しいところだろうと思われました。その先の2:1の二俣は左が本流ですが、小松湿原へ上がるために右に進路をとると渓相は急に暗くなり、倒木で荒れている上に緑苔に覆われた急勾配の滝が続きます。3mほどのこれも緑苔に覆われた門扉のような滝を右から小さく巻いて20分ほど、ようやく源流部の様子になってきたところで出てくる二俣が曲者でうっかりすると二俣であることにも気付かず左に引き込まれそうになりますが、遡行図をよく読んで狭い右へ入っていくと倒木帯の先に湿地が出てきて、その向こうが小松湿原でした。

樹林の中にぽっかり開けた小松湿原はさして広さはないものの、湿生の草の合間にびっしりとモウセンゴケがかわいらしい姿を見せていていい感じ。踏み荒らすのがためらわれてすぐに湿原の左側に回り込みましたが、稜線の登山道から降りてきているはずの道の入口がわからず、小尾根を一つまたいで沢形を詰めました。沢形は水が涸れると崩れやすい土のルンゼになり、それもやがて土の壁に消えて後は下草が邪魔にならず歩きやすい斜面を進むと、樹林の中の登山道にひょっこり飛び出して遡行終了となりました。ここでヘルメットを脱ぎ、ハーネスを外して、後生大事に背負ってきたリンゴをかじって大休止です。

鬼怒沼へ向かう登山道はだらだらとしたアップダウンが長かったのですが、意外にもよく整備されていて歩きやすい道でした。途中では右手に尾瀬の燧ヶ岳も見えましたが、鬼怒沼山を正面に見るようになる頃からはっきり雨模様。鬼怒沼山を右から巻くように登り山頂への分岐をやり過ごして下りにかかるとしばらくして道が二つに分かれ、左に進んでわずかで鬼怒沼湿原の奥に建つ避難小屋の前に出ました。

避難小屋の中には何人かの登山者と首輪をつけた犬1匹が雨宿り中でしたが、我々がパンの昼食をとっている間に皆、雨脚が衰えたタイミングを見計らって出て行き、残された我々も食事を終えたら小屋を出て湿原の木道を進みました。鬼怒沼湿原はもと火口湖が湿原化したものなのだそうですが、真っ平らというわけではなく緩やかな起伏があって、その中に大小いくつもの池溏が点在しています。雨上がりの曇り空ですがこれはこれで風情があっていいし、先に出て行った登山者たちの姿も既になく誰もいない湿原を2人占めにして歩くのはしみじみとうれしいものでした。

湿原の南端から道は下りにかかり、再び雨、そして雷も鳴り始めました。地図で見るより長く感じた下降が終わると鬼怒川沿いの道が奥鬼怒歩道となって、上流から2軒目の温泉宿がゴールの「加仁湯」でした。

我々が泊まった奥鬼怒温泉郷の「加仁湯」は温泉宿というにはずいぶん近代的なビルのつくりですが、宿の人の応対も親切でしたし、料理も実に盛りだくさん(な上に「鹿肉ステーキ」も追加)、それに何より露天風呂が最高でした。これから北岐沢を遡行される方は、ぜひ公共交通機関を使い、日程も2泊3日にして、鬼怒沼及び奥鬼怒温泉郷と組み合わせたプランとすることをお勧めします。

▲風呂の写真は一部「加仁湯」の案内より拝借。