魚野川万太郎谷井戸小屋沢

日程:2005/10/01-02

概要:万太郎谷の支流井戸小屋沢を途中テント泊の1泊2日で遡行。万太郎山から吾策新道を下降。

山頂:万太郎山 1954m

同行:ひろた氏

山行寸描

▲F3=2段滝。上の画像をクリックすると、井戸小屋沢の遡行の概要が見られます。(2005/10/02撮影)
▲F8。トポには10mとあるがもっとありそうな立派な滝。(2005/10/02撮影)
▲雲の上へ。後はわずかかと思っていたらこの後にもう一度シビアな薮漕ぎが待っていた。(2005/10/02撮影)

この週はひろた氏と上越の沢に行こうということになっていて、最初は湯檜曽川の抱返り沢を検討していたのですが、天気も悪そうだしもう少しのんびりとした沢にしようということで選ばれたのが万太郎谷の支流・井戸小屋沢です。

2005/10/01

△09:15 万太郎本谷入渓点 → △11:15-45 井戸小屋沢出合 → △13:15 小障子沢出合

朝、新幹線で越後湯沢駅に降り立ち、車で来たひろた氏と合流。吾策新道への登山口の駐車場まで入って、そこからすぐの地点から入渓しました。

しばらく平凡な河原が続きますが、やがてきれいなナメと釜が出てきて、さらにその先にはまるで石切り場のように見事に四角く切り取られた白い岩場も出てきて早くもいい感じ。相変わらずどんな小滝も逃さず瀑心突破を繰り返すひろた氏を横目に見ながら、こちらは一番簡単そうなラインを狙って省エネで進みます。ナメの真ん中に水流が樋を穿つ滝をまたいでみたり、きれいな釜を(夏なら泳げるのになぁ)と内心残念がりながら左右にへつったりしながらやがて関越トンネルの巨大な換気口を通り過ぎて、入渓点から1時間余りでオキドウキョ沢が右上から落ちるゴルジュに到着しました。

最初は左から細かいホールドを拾ってトラバースできるかと思いましたが、しばらく壁にぶら下がってみて断念。右岸には斜めに奥へ上がっていくバンドがありますが、その先がどうなっているのかわからないのでふんぎりがつかず、ひろた氏にバトンタッチしました。ひろた氏は巧みなマントリングで上がってバンドに奥へ進んだところ、途中の残置スリングも使えてうまい具合にその先の1段高い奥の瀞場へ降り立つことができたようです。こちらは先ほどのトライでパンプしてしまったので潔く泳いで小滝を乗り越えて奥の瀞場に達し、その先のゴルジュを抜けてどんづまりの2段の滝の手前からおとなしく左岸に上がって崖の縁を抜けました。

釜のある滝を左から越えてすぐに、右から井戸小屋沢が出合います。今日は時間もたっぷりあるのでここで大休止とし、ひろた氏は釣り竿を取り出して近場を偵察に行き、私は濡れた身体を乾かそうと手早く小さい焚火を作ってほっこりしました。しかし残念ながらひろた氏はボウズに終わったようで、30分ほどの大休止もおしまい。いよいよ井戸小屋沢に入りました。

すぐに出てくる3m滝は左壁に打たれたボルトをひろた氏がこれを見逃すはずもなく、これを万一のための自己確保支点として用いながら乏しいフットホールドに果敢に挑んで見事に抜けていきました。こちらはすっかりのんびりモードに入っているのでまったく苦労のない左の巻きで上へ抜けましたが、ひろた氏は保険としてボルトにかけておいたスリングとカラビナを回収時に誤って落としてしまったらしく、2人で探しに戻ってみると確かに水底けっこう深いところに赤いスリングが見えています。自分だったら諦めたかもしれませんが、道具を大切にするひろた氏はヘルメットを脱いで鵜飼の鵜のようにざんぶと水に潜るとしっかりスリングをつかんで浮かび上がって来ました。凄過ぎる……。

続く7m滝はなかなか立体的でそそるものがありますが、直登は無理そうで右から巻き上がりました。その先で廊下状を抜けると沢は明るく開けてきて奥に稜線も見え、ここからは次々に現れる小滝を右に左にと次々に楽しく越えていけます。F3・7m2段滝はこれまた立体的な造形が面白く、ひろた氏は左から、私は右から、いずれも難なく越えました。さらに続く小滝群をフリクションを利かせたり壁にホールドを求めたりして進むと沢が左に曲がってすぐに小障子沢の出合となって、真正面に伸びるのが小障子沢、その途中から右へ入っているのが井戸小屋沢本流です。時刻は早いですが幕営適地はこの辺りにしかないとのことなので、予定通りここでリュックサックをおろすことにしました。

ありがたいことに狭い河原の右岸側にテントひと張り分きれいに整地された場所があって、ここにテントを張りました。ただし、ここは水流から数10cmしか上がっておらず、今晩雨が降って増水したらエラい目に遭いそうなので、ひろた氏のロープを借りて背後の斜面にエスケープ用のガイドロープを設置しました。

一方のひろた氏は嬉々として薪集めに精を出しており、あっという間に膨大な量の燃料が用意されました。焚火は午後3時くらいから始まって延々と燃やし続けられましたが、それだけでは飽き足らない我々は周囲の流木にまとわりついた枯草にも火をつけてみたりして、ほとんどただの放火魔に成り下がっていました。さらに夕食のラーメンをいただいた後も星が瞬いてくれる夜空に向かって炎を上げ続けましたが、こうして真上を見上げていると、あの向こうにある30億光年先の地球型惑星の住人も我々と同様に沢登りをしていて、やはり焚火を囲みながらこちらを見つめているのかもしれないと不思議な気持ちにさせられます……などとガラにもなくおセンチ(死語)な感慨にふけりながら何の気なしに手を岩の上にやると、ぬるっとしたものに指先が触れました。「?」と思いながらヘッドランプで照らすと、太さも長さも成人男性の中指程の茶色い物体がそこにへばりついています。後で調べたところではこいつはどうやらこの辺りに生息するナメクジの仲間だったようですが、足のない生き物が大の苦手の私は、うわ、なんだこの不気味な生物は?といっぺんに気分が悪くなってしまいました。

2005/10/02

△07:00 小障子沢出合 → △09:10 二俣 → △14:05 稜線 → △14:15 万太郎山 → △16:30 吾策新道登山口

幸い雨に降られることもなく、暖かく眠れて快適な目覚め。さっそくひろた氏が焚火を熾し、朝食のマカロニを作ってくれました。

テントを畳み、朝の勤行なども済ませていよいよ出発。井戸小屋沢本流への入口はいきなりちょいとシビアな3m滝となります。ここはひろた氏が空身になって右から取り付き、心もとない草の根を頼りにフリクションを利かせて登って、リュックサックも私も引っ張り上げてくれました。3m滝の上は右手にすぐ水流の厳しそうな滝が見えていて、ここは右岸の草付を巻き上がります。これを越えれば再びナメ滝帯で、次々に現れる易しいナメ滝に笑いが止まりません。ここは右か左か、フリクションで抜けるか弱点を探すか、とパズルを解きながら遡行していくのが実に楽しく、渓相も明るいし、ありがたいことに青空までも広がってきました。そしてそんな気分を最高潮にしてくれたのが、沖障子沢を左に分けた後に出てきたF8・10m滝です。高いところから奇麗な弧を描いて落ちる水流はいかにも優しげで、右壁から気分良く高度感を楽しみながら登ることができました。ただし、朝一番の滝でひろた氏の果敢な突破を待機している間に腹を冷やしてしまったのがここにきて効いてきたらしく、滝の上の巨岩帯で「う、先に行ってて」と断って岩陰にしゃがみます。このため、せっかく補給した朝食のエネルギーもこれで失われてしまいました。

二俣を左へ入った時点ではもう稜線が近いような気がしていましたが、実際はここからが長丁場。水がぐっと少なくなると共に、滝も微妙に難しいものが出てきます。門のように立ちはだかる滝が続く場所では最初は右から巻きましたが、次の滝は直登を試みたひろた氏がハマってしまい、あわてて右から巻き上がった私が上からスリングを投げて抜けました。さらに突き当たりの二俣は正面の立派な岩壁の下を左に回るとすぐに次の二俣になっていて、その右手が核心部の3段30m滝です。

ここは見るからに直登は困難で、右岸の草付を沢沿いに小さく巻き上がることもできそうでしたが、我々はさらに安全策をとっていったん左の支沢に入ってから大きめに高巻きました。ここには踏み跡もあってそのまま2段目の上へ際どく抜けているようでしたが、落ちればただではすまない高さがあるだけにアンザイレンしていないと突っ込むのは不安です。こんなことなら出だしからロープを結んでおけばよかったと思いましたが後悔先に立たず。ひろた氏はいったん左上の尾根上の灌木まで上がってセルフビレイをとってからロープを投げてくれて、これに確保された私が2段目を巻き上がるラインを偵察してみたものの、ひろた氏が今の位置から懸垂下降しなければそちらに向かうためのラインに復帰できず、ロープの長さからしてそれは不可能。仕方なく私も偵察を断念してひろた氏の位置まで登り、ここから笹薮漕ぎの大高巻きに入ることになりました。

結局、密笹を50分ほどももがいて抜けたのは3段滝の先で、バンド状をロープを使わずに沢筋へ戻れたのは幸運でしたが、あたりはすっかりガスに覆われてしまっていました。この上は両岸が狭まった中に数m程度の滝が連続していて、濡れはするものの、空身で登ればちょっとしたボルダリング感覚を楽しむこともできます。たとえばチョックストンの乗った小さな滝は、最初は水流の右からバランスで抜け、次は左の壁に隠されたしっかりしたホールドの引きつけで一歩上がってから右手を右壁に飛ばしてステミングの態勢になればOKという具合。その先にも続くシビアそうな滝を右岸の岩と草付のミックス帯を巻き上がってかわすとその後はさして難しい滝もなく、空腹を抱えながら高度を上げていき最後に濡れて岩の脆い小滝を越えると滝は終了で、ガレ沢が右に分かれる場所に登りついて小休止としました。正面にはガスの上に茂倉岳の姿も見え、あたりには野イチゴが赤い実をつけていてほっと一息といったところです。

ここでのひろた氏の提案はガレ沢の詰めでしたが、いかにも崩壊しそうな岩の堆積に私がNOを出してその左手の沢形を詰めることにしました。沢筋の中は最初のうちこそ湿生植物も見えていましたが、すぐに草付の中の階段状となり、やがてそれも消えて灌木漕ぎへと突入することになりました。頭の中ではなるべく右へ向かえば吾策新道に近づくことがわかっていても、薮の薄い方を狙って軌道修正を繰り返すうちにかえってどんどん薮のただ中へととりこまれていってしまいます。ひろた氏とも離ればなれになって時折声を掛け合いながらお互いに上を目指しましたが、ずいぶんたってからまずひろた氏が登山道に出たとのコールがあり、腹に力の入らないこちらも必死に灌木を漕ぐこと40分でようやく岩壁の下に抜け、そこを右から回り込んでわずかで吾策新道に飛び出しました。

私が稜線に抜けたのはちょうど万太郎山を往復してきたひろた氏が戻ってきたところで、無事の再会を喜び合ってから、私もすっかりガスに覆われた稜線をとっとと山頂へと往復しました。後は迷いようのない吾策新道を下るだけなのでひろた氏には先に下っていただいて、こちらは沢靴をスニーカーに履き替えてから雨の道を下りました。

ぬかるんで滑りやすい道をおよそ2時間弱で登山道近くに達してみるとひろた氏は車を奥へ進めてくれていて、ここで今回の山行は終了です。この後、越後湯沢方面の「岩の湯」でさっぱりしてから越後湯沢駅前の中華料理屋に入り、餃子と炒飯で打ち上げました。

二度の薮漕ぎには参りましたが、上越の沢の楽しさも満喫できた沢登りでした。3段30m滝の処理はもっとうまいやり方があったようにも思いますが、いずれにせよ全ての場面で先陣を切ってくれていたひろた氏には毎度のことながら感謝です。