多摩川水根沢谷

日程:2005/07/30

概要:奥多摩湖直前の水根沢谷を遡行。半円ノ滝の上で遡行を終了し、林道を下降。

山頂:---

同行:かっしい / デチ

山行寸描

▲ゴルジュ内の滝。上の画像をクリックすると、水根沢谷の遡行の概要が見られます。(2005/07/30撮影)
▲大滝手前のゴルジュ。恐るべき水勢に左岸から巻いたが、右岸を上がって懸垂下降で下るラインもある。(2005/07/30撮影)
▲半円ノ滝。ステミングでの直登に挑戦したが、あまりの水勢に断念し、右壁を微妙なバランスで越えた。(2005/07/30撮影)

会社の若い衆を中心に何人かで定期的にクライミングジムで練習しているのですが、そのうちの有志で沢登りに行こうという話になりました(というか、そういう話をもちかけたんですが)。この日一緒に沢に行くことになったのはかっしいとデチの2人で、私より10数歳も若い妙齢の女性たちを連れて嬉々として向かったのは「初心者向きの沢」とか「水と戯れながら遡行する沢」とガイドブックに紹介されていた水根沢谷です。デチは初めての沢登りなのでこの辺りが手頃だろうと、ある意味水根沢谷をなめてかかっていたのですが……。

2005/07/30

△10:20 水根キャンプ場 → △11:55-12:55 大滝の高巻き → △13:10-20 ワサビ田 → △14:40-15:20 半円ノ滝の上 → △15:50 水根キャンプ場

奥多摩駅からバスで15分ほどの水根バス停に降り立ち、さらに徒歩15分で水根キャンプ場。入渓点はどこかな?と思いながらさらに先に進むと広場のように開けた場所の左手下方に水根沢が通っており、ちょうどそこを完全武装の一個分隊が前進していくのが見下ろせました。なるほどここから降りればいいのか、とうなずいてからちょっと戻り「むかし道休憩所」という施設に余分な荷物を置かせていただいて、改めて先ほどの斜面を沢に下りました。今日はなるべく2人に先に立ってもらおうと、保護者モードでゆっくり進むことにしています。あいにく曇り空で水は少々冷たく、あまり泳ぎたい雰囲気ではないのですが、この水量の多さではそうも言っていられない場面が出てくるだろうな、と思いつつ進むと、やがて沢筋はゴルジュ状になってきて3mの滝。まず私が左壁沿いに水に入って近づいてみましたが、どっぷり腰までつかることになりマントリングも足が決めにくいので、いったん戻ってから左壁の張り出しにホールドを求めて足はスメアリングでの腕力系トラバースの手本を示してみせて、かっしいとデチを迎えました。続く4mの滝は右の垂直の壁に狭いもののしっかりしたバンドがあり、ここをへつります。高さはないものの何しろ水流が逆巻いている感じで流されることが心配ですが、ここも2人は問題なく抜けてきました。

いったん開けた場所は倒木が多く荒れた雰囲気で、水もかなり濁っているし何があったんだろう?という感じです。続くゴルジュは小滝の連続となり、最初は右から、次は左からへつりましたが、その次の小滝のへつりは少々シビア。残置スリングに手を掛けて遠いスタンスに立ちこんでいくことになるのですが、重心移動や細かい立ち込みに慣れていないと立ちすくんでしまうかもしれません。沢登りが久しぶりのかっしいはここでかなり逡巡し、意を決して足を伸ばしたものの水に落ちてしまいました。一方のデチはコンスタントにボルダリングの練習をしているだけあって、手順の指示を受けながら上手に突破。さらに左壁に残置スリングがあるナメ滝を右から越えて左に曲がると、先行パーティーがロープを出して右(左岸)から高巻きにかかっているのが見えました。声を掛けてみると前方のゴルジュの滝がとても登れないとのことで、そこは2段20m大滝の前衛となる3m滝のはずですが、もの凄い水量が轟々と音をたてて落ちており確かにとても近づけそうにありません。持参した30mのロープで3人が登る(しかも彼女たちは2人ともプルージック登攀の経験がない)となるとロープは15mまでしか伸ばせませんが、見上げてみると支点を作れそうな木の位置は頭上10m強で、ロープの屈曲を考えるとぎりぎりですがなんとかなりそうです。

かっしいにビレイを頼み、デチはロープの真ん中に結び目を作って安全環付ビナでハーネスに結びつけてから登ってみました。ホールドは適度にあって手持ちのビナを節約しながら抜けられるかなと思いましたが、ワンポイントだけランナーなしでは不安になる箇所あり。なんとかぴったり15mで支点を作ることができ、デチ・かっしいの順に登ってきてもらいます。足場の不安定な登攀は経験がない2人でしたが、かっしいが一度ずりっと落ちかけただけで無事に上がってきてくれました。ところが我々が登っている途中でやってきた後続パーティーは、我々とは反対の右岸を斜上し、ゴルジュ滝の先から懸垂下降でさっさと下っています。しまった、先行パーティーにだまされた!と思っても後の祭りで、仕方なくもう1ピッチ水平にロープを伸ばしてから安定した土のバンドを大滝の上へ出ました。

ようやくにしてワサビ田に着き、一安心。行動食を口に入れました。2人ともまだまだ元気ですが、それでもデチはかなり寒い思いをしているようです。あと少し、がんばろう!

最後のゴルジュにも、面白い滝がいくつか出てきました。釜を重ねた連瀑の最初の滝は簡単に越えられますが、次の滝の左壁はちょっとホールドが甘くバランスを要します。そこから倒木を左岸に渡って滝上に抜けしばらく進むと、手前右にきれいな丸い釜ができていて水流がそこを洗濯機のようにぐるぐる回っている面白い造形の小滝が出てきました。ここの左壁は立っていて一見つるつるですが、細かく凹凸を拾えばトラバースで抜けられそう。実際にはさらに左から回り込めば簡単に越えられるのですが、ここまできたら遊ばなくてはもったいないのであえて微妙なそのラインを採用してここを通過し、続く2人も多少ひきつりつつも無事に抜けてくれました。さらに淵を泳いだり、苔の壁を際どくトラバースしたり、冒頭の一個分隊が沢を下ってくるのとすれ違ったりしながら進むと、いよいよこの沢のフィナーレである半円ノ滝に到着です。

しかし半円ノ滝は遠目に見ても水量が多く、ガイドブックなどに載っている大股開きでの直登は無理であることがわかります。2人には易しい左壁から巻き上がることを指示してから滝の左から近づいてみると、まるで破裂した水道管から吹き出す水のように奔流が岩の滑り台をぐるりと回りながら落ちており、そこへ右足を伸ばして水流をまたぎ数歩上がってみましたが、左足に水流が当たる位置まで上がるとその勢いにはじかれそうになってとても安定した体勢を作れません。やはり無理だったかと半円ノ滝の直登は断念したもののすごすごと引き返すのも癪なのでそのまま右壁に移って突破を図ったのですが、こちらも案外にホールドが乏しく少々冷や汗をかきました。かっしいたちが左壁を登りきったところに後続の3人パーティーがやってきたのでこれは見ものと上から見物していたところ、後続の先頭が果敢に半円ノ滝に突っ込みましたが、やはり左足を決めることができずギブアップです。よしよし。

半円ノ滝のすぐ先で遡行は終わり。ここまでずいぶん時間がかかってしまいましたが、せっかくの機会なので最後に手近の斜面で2人に懸垂下降の稽古をつけてから、本当の終了としました。沢靴を脱ぎハーネスやヘルメットを外して目の前の斜面を50mほども登ると、沢沿いによく歩かれた林道が通っています。これを下って30分でキャンプ場に帰り着き、荷物を整理してバスで奥多摩駅に戻って「もえぎの湯」でさっぱりしてから、駅近くの食堂で3人で軽く打ち上げました。

「初心者向けの沢」とは言いがたい厳しさもあったこの日の水根沢谷。どうやら遡行の直前の降雨が水量を大きく増していたようですが、パッキングの時点ではちょっと重装備かなと思っていたロープやスリング・ビナが実際にはぎりぎりで、万一ロープを持っていかなかったら大滝手前で進退窮まっていたかもしれません。まさに自然は千変万化、ガイドブックの記述がどうあれ沢は決して侮ってはいけないと痛感させられました。そんな中、泣き言一つ言わず遡行しきったかっしいとデチには感謝です。これに懲りずにまたどこかの沢へ行きましょう。今度こそ癒し系で。