木曽駒ヶ岳

日程:2025/03/10

概要:駒ヶ岳ロープウェイ千畳敷駅を起点に木曽駒ヶ岳をピストン。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:木曽駒ヶ岳 2956m

同行:トモミさん

山行寸描

▲中岳を越えて木曽駒ヶ岳山頂を目指す。左奥に見えているのは御嶽山。(2025/03/10撮影)
▲木曽駒ヶ岳山頂の方位盤が示す360度の展望。この日は弱風快晴の好コンディションに恵まれた。(2025/03/10撮影)

先月の赤岳に続くトモミさんの雪山塾第二弾は、中央アルプスの木曽駒ヶ岳。実は昨年末の時点では赤岳よりも先に木曽駒ヶ岳の方が検討の俎上に上り、大晦日から元日にかけて宝剣山荘に泊まる御来光山行にしようという話もあったのですが、諸般の事情からこれは実現できずこのタイミングになりました。もし大晦日に宝剣山荘に泊まっていたら、YouTuberのかほさんに会えたかもしれないのに(笑)。

ルート上の混雑を避けるために日曜日現地入り・月曜日登山という予定を組み、初日は昼過ぎに新宿を発つ高速バスに乗ってのんびり駒ヶ根バスターミナルまで。トモミさんが手配してくれた宿にチェックインしてから外に出て、木曽山脈の山々が夕日の下で影に沈む様子を眺めながら駒ヶ根駅近くまで歩いて2年前に入った「水車」さんでおいしいお酒と料理に舌鼓を打ちました。

2025/03/10

△09:40 千畳敷駅 → △10:40 乗越浄土 → △11:10 中岳 → △11:35-45 木曽駒ヶ岳 → △12:10 中岳 → △12:25-40 乗越浄土 → △13:10 千畳敷駅

朝、ロビーで待ち合わせて最寄りのバス停へ向かう道すがらに見上げる中央アルプスは、雲一つない青空の下で今日の山行の成功を約束してくれているようでしたが、トモミさんはここ数日立て続いた山岳事故[1]のことが気になってあまり眠れなかったのだそう。やがてやってきた始発バスは最初はがら空きでしたが、菅の台バスセンターでは大勢の登山者が乗ってきて補助椅子まで使用する混み具合になりました。

しらび平駅から千畳敷駅までロープウェイに運ばれて、身繕いをしてから駅舎の外に出ると見慣れた千畳敷カールの景色が広がります。一昨年はサギダル尾根、昨年は宝剣岳中央稜を登るためにこの場所を起点として雪上に乗り出したのですが、今の時期はカールを横断するのではなく右下側から回り込むように指示されており、すでに多くの登山者がそのルート上に縦列を作っていました。我々もすぐにその後について雪の上を歩き出したものの、カールの中は予想外に気温が高く、これはたまらんとすぐに立ち止まって上衣を1枚脱ぐことになりました。

千畳敷カールの右奥から乗越浄土に上がる八丁坂は先週末にはアイスバーンと化しており、そのため滑落事故が頻発していて中央アルプス地区の遭対協が前日に雪面はカチカチのアイスバーンです。ピッケルワーク、前爪を効かせたアイゼンワークが必要です。初心者、初級者のレベルではありませんと警鐘を鳴らしていました。ところがこの日は雪が適度に柔らかく適度に締まっており、難なく乗越浄土に上がることができました。まったくの偶然ながら土日を避けて日月の日程にしたことが奏功したかたちですが、そうは言っても問題になるのは登りよりも下りの方です。

まずは雪になかば埋もれた宝剣山荘の裏手に回ってリュックサックを置き、出だしに脱いだ上衣を取り出して再び身につけました。ここからは中岳を越えて木曽駒ヶ岳山頂まで遮るもののない吹きさらしの稜線歩きになるからですが、幸いなことに風は穏やかで、体感温度はカール内より多少寒いかな?といった程度でした。

まずは目の前に見えている中岳まで。左右のロープに挟まれた登山道は雪がよく締まって歩きやすく、やがて登りに差し掛かってもコンディションの良さは変わりません。

中岳の上に達すると目指す木曽駒ヶ岳の山頂が緩やかな鞍部をはさんですぐそこにあり、その左奥に大きな山体を見せる御嶽山も同時に目を引きました。

弱風快晴の木曽駒ヶ岳山頂に到着。中央アルプスは沢登りアルパインではそれぞれ何度か登っていますが、その盟主である木曽駒ヶ岳の頂上に立つのは私にとってはこれが実に30年ぶりのことです(遠い目……)。

この山頂からの展望の第一は、斜めに連なって見える北アルプスの山々です。左端に乗鞍岳、少し離れて笠ヶ岳と奥穂高岳、さらに右手には鹿島槍ヶ岳をはじめとする後立山連峰。ここから右に視線を向けていくと頚城の山々、浅間山、さらに八ヶ岳があって南アルプスへと続きます。

東に遠ざかつて雪白き山あり。問へば甲斐の白根といふだけでなく、南アルプス全山が(光岳からさらに深南部までも)見えています。山梨県側からなら見慣れているこれらの山々も、反対側から見ると山容が違っているために新鮮な印象を受けました。

ウェアをほとんど身にまとわず驚異的な耐寒能力を示すお地蔵さんと、ゴーグルとバラクラバで完全武装しているために顔が真っ黒に塗りつぶされたようにしか見えないトモミさんとをそれぞれカメラに収めたら、さっさと下山開始です。

来し方を振り返れば、南に連なる中央アルプスの名峰たちが一望できます。これらのうち主脈上の山々はここから空木岳・南駒ヶ岳を越えて越百山まで縦走していますが、右(西)に一歩離れている三ノ沢岳は残念ながら未踏。いずれ沢登りかアイスクライミングかであの頂上に達したいと長らく思ってきましたが、今となっては初夏に高山植物を愛でながら登山道を往復するだけでもいいかなという気持ちになっています。

元来た道を辿って中岳を越えるあたりから、私は珍しく高山病の症状(主に頭重感)を自覚し始めました。これまで日本国内では富士山以外にそうした感覚に見舞われたことはなかったのですが、考えてみるとロープウェイで一気に950mも高さを上げて標高2612m[2]の千畳敷駅に運ばれて、そこから片道わずか2時間で3000mに近いところまで登っているのですから無理もありません。昨秋のヒマラヤでの高度順応効果もついに消費期限切れかと苦笑したり、それにしても前を行くトモミさんはなぜあんなに元気よく歩けるのかと恨めしく眺めたりしながら、写真撮影のためにスピードが上がらないフリをしつつトモミさんの後ろ姿を追いかけました。

乗越浄土で小休止してお湯と行動食を軽く口にしたら、いよいよトモミさんの睡眠不足の原因となった八丁坂の下りです。この下りで神経を使うために、すぐそこにあるように見える千畳敷駅が実のところ思ったように早く近づいてはくれないことは、私自身も何度か経験済みです。

八丁坂がアイスバーンになっていたら雪面に身体を向けてのクライムダウンを強いられることになるため、ダブルアックスで下れるようにと私が持参した軽量アックス(ペツル「ガリー」)を1本トモミさんに渡しておいたのですが、幸いアイスバーンにはなっていなかったことは上述のとおり。むしろ気温の高さのために雪が腐ることで生じるスリップの方が心配になりましたが、斜面に残されたステップが意外にしっかりアイゼンを受け止めてくれたおかげで、私はトモミさんの下側に立ちながら終始前向きに下ることができました。かたやトモミさんの方は斜度がきつくなったところからクライムダウンの態勢に入りましたが、こちらも自前のピッケルと私が貸したアックスとをうまく使ってスムーズに降りていて危なげがありません。これならもう、雪山は免許皆伝と言ってもいいのでは?

アイゼン団子をピッケルで叩き落としながらの我慢の下りを経て、斜度が緩めばあとは普通の歩きになります。休憩コミでわずか3時間半のショートトリップでしたが、天候と展望に恵まれて楽しかった山歩きを無事に終えて千畳敷駅の駅舎に入ったところで、二人ともビーコンのスイッチを切りました。

雪山装備をリュックサックに納めて身軽になった時点で、次の下りロープウェイの発車時刻まで約30分間。このすきま時間を利用して、ホテル千畳敷「2612Café & Restaurant」の「チーズ香る雪山オムライス」をいただきました。お値段がちょっと高めなのは標高加算があるためだと納得しなければなりませんが、たっぷりの粉チーズをまとったオムライスを自家製デミグラスソースにメープルシロップで変化をつけていただくその味わいは絶品です。きのこをこよなく愛するトモミさんにとっては、トッピングのまいたけとしめじも高得点だったに違いありません。

トモミさん作品集

脚注

  1. ^3月7日(金)から9日(日)までの間に、報道を目にしただけでも以下の山岳事故が発生していた。
    • 7日:八ヶ岳の赤岳と天狗岳でそれぞれ66歳の男性が滑落(いずれも死亡)。
    • 8日:千畳敷カールの八丁坂で54歳の女性が滑落(骨折→救助)。
    • 9日:甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根上部で男性が滑落(本稿執筆時点で安否不明)。木曽駒ヶ岳でも54歳の男性が行方不明(翌日発見→死亡確認)。
  2. ^我々をしらび平へ運んでくれたバスの運転手さん曰く2612m=『ニロクじゅうに』と覚えてくださいとのこと。なるほど!