白水沢左俣左沢

日程:2020/07/24

概要:甲子温泉大黒屋を起点に白水沢に入り、左俣左沢を遡行して甲子温泉と甲子峠をつなぐ登山道に抜け、起点へと戻る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:ルーリー / ヅカ氏 / ブミ氏 / エリー

山行寸描

▲白水滝10m。上の画像をクリックすると、白水沢左俣左沢の遡行の概要が見られます。(2020/07/24撮影)

◎本稿での地名の同定は主に『東京起点 沢登りルート100』(山と溪谷社 2020年)の記述を参照しています。『東京起点 沢登りルート120』(山と溪谷社 2010年)の記述と比較すると滝の高さなどがかなり違うので要注意です。

7月23日から26日までの四連休のうち前半2日を使って奥秩父の和名倉沢に行く予定でしたが、いつまでたっても梅雨が明けないためにこのプランはおじゃん。変わって比較的天候が良さそうな福島県の白水沢(阿武隈川水系)が行き先になり、メンバーも徐々に増えて、最終的に昨年泙川小田倉沢・津室沢でご一緒したルーリー、ヅカ氏、ブミ氏と、昨年日川曲り沢で沢デビューしたエリーに私を加えた5人パーティーとなりました。

ブミ氏は遡行当日に現地で合流することになり、残る4人はヅカ氏の車で東北自動車道を北上し南会津の「道の駅 しもごう」に入って軽く前夜祭をして22時頃に就寝しました。

2020/07/24

△07:10 駐車スペース → △09:30-50 二俣 → △10:05 奥の二俣 → △11:30 奥の奥の二俣 → △13:50-14:00 登山道 → △15:05 駐車スペース

集合場所は甲子温泉大黒屋の近くの駐車スペースで、申合せ通り7時にここでブミ氏と一緒になり、出だしから沢靴を履いて出発しました。

大黒屋さんの敷地を通り抜け、阿武隈川本流を渡って登山道に入り階段を少し登ったところで出てくる最初の堰堤から白水沢に入渓します。すぐに行く手に大きな壁が広がり、左に曲がって立体的な岩の重なりを大胆に越えると、いきなり目の前に立派な白水滝10mが現れます。

一見したところこの滝の左壁の黒い部分に落ち口へと通じるバンドがあるように見えましたが、どうもそのラインは脆そう。それよりも水流すぐ左の黄色い壁の方がホールドも豊富で登れそうです。そこでリードの私が落ち口まで登ってロープをフィックスし、ルーリーとブミ氏はアッセンダーを使用。ついで登攀経験が豊富ではないエリーは上からロープを引いて確保し、沢ベテランのヅカ氏がその後ろからフリーでフォローして無事にこの滝を越えました。以後も、私・ヅカ氏・ルーリーのいずれかがリードし、残りのメンバーはアッセンダーを使うか上から引き上げるかというかたちで滝を越えていくことになります。

さて、白水滝を越えたらすぐに出てくる堰堤は左(右岸)から越え、ついで出てくるのがY字状に水流を落とす8m滝です。

滝と見れば常に正面突破のラインを探すヅカ氏はここでも本領発揮。さすがに水流の強さに少し躊躇していましたが、それでも意を決して漏斗状の滝の中に飛び込むと見事に突破していきました。これを見て残るメンバーは「あれは自分たちには無理!」とさっさと左(右岸)巻き。

釜と見れば常に飛び込んで泳ごうとするヅカ氏はまたまた本領発揮。これならできるだろうとエリーもブミ氏もダイブしていましたが、私は大人なのでそういうことはしません。

沢筋を少し進むと直瀑・衣紋滝20mが現れました。時間をかけてハーケンを打ちながら登るのであれば右壁に直登の可能性を見出すこともできそうでしたが、今回は穏健に左(右岸)の踏み跡を登ります。この踏み跡は草付の中を滝からあまり離れずに登って落ち口近くへ通じていますが、上部で傾斜が強くなり岩も少々脆いので、ルーリーに続いて2番手で登ったヅカ氏から残りのメンバーに対しロープを出してもらいました。

あまりヒョングっているようには見えないヒョングリ滝8mは左側を簡単に登り、続いて6m滝も水流の左側。この滝では先頭を切ったヅカ氏が水流に極力近いところを登って最後は微妙なフリクションで落ち口に抜けましたが、それよりも左寄りの草付の中にフットホールドが続いており、こちらを登る方が確実。いずれにしても、ここは傾斜が強いのでロープを出すのが無難です。

存在感のある滝が一段落したら、しばらくはナメと釜を持つ小滝が続いて楽しく遡行できるようになります。川底の黄色い岩盤はフリクションが利き、釜ではあえて難しいへつりのラインに挑んで腕試しをするのも楽しいところです。

やがて二俣に到着して、ここで大休止。焚火も試みましたが、時間が限られていたこともあり火は育たず。しかし右俣の左岸には幕営に良さそうな台地がありそうで、あえて1泊2日の計画にして初日はゆっくりここで泊まるというのも楽しいだろうと思いました。ここからは右俣の大白森沢も遡行対象になっていますが、我々は左俣を進みます。

しばらくゴーロを進み、あっという間に奥の二俣に到着しました。右沢の方が滝の幅も水量も大でそちらに進んだ記録もありますが、ここはトポに従って左に進みます。その出だしにある15m滝はルーリーのリード。水流の左側を細かいフットホールドをつないで登りますが、リードで登るのはなかなかの緊張感を強いられたことと思います。ルーリー、ナイスクライミング!

15m滝の先にすぐ出てくる5m滝は水流の左寄りからも微妙なバランスで登れそうでしたが、右(左岸)から1段上がって水流に近づくとがっちりしたホールドを使ってぐいぐい登れます。リードしたヅカ氏が上からロープを垂らして全員がこの滝を登りきると、そこで水流は直角に右に曲がっており、そこに小さいチムニー滝。これは両足突っ張りで容易に越えられます。

簡単な3m滝を越えてしばし、行く手に多段15m滝が出てきました。出だしは私がリードしましたが、中段に滝の下を見通せる安定したテラスがあるのでそこで短くピッチを切り、上半分はヅカ氏のリード。ホールド豊富で易しい下半分に対し、上半分はややヌメるため慎重さが求められます。

多段滝を越えたら沢筋の右に3mほどの壁のような滝。その上には傾斜の緩い滝が続いており、水量からしてもそちらが本流です。トポに急勾配のナメとナメ滝が連続するとあるのはこれのことだろうと推測がつきましたが、ここまでで滝は存分に堪能したので、より早く登山道に出られるだろうと思われた左の支流に入ることにしました。

後は水流が細くなった沢筋を詰め上げるだけだろうと思っていたのですが、豈図らんや、急斜面の先に滑りやすく岩の脆さにも気を遣う滝が続きだしました。

その最大のものは岩壁の真ん中に細い水流を落とす高い滝。ここは30mロープを引いて私がリードし、「あと5m!」のコールが掛かったところで落ち口に抜けました。中間に1カ所微妙なバランスが必要な場所があったものの、後は快適に登れてホッと一息。しかし、滝はまだ続きます。

高さはないもののスリッピーな斜滝が2カ所。そして最後の滝は険悪な二俣滝で、ここでは私が右滝、ヅカ氏が左滝を突破して先行きを窺うことになりましたが、岩の脆さのために両者とも苦戦。どうにか突破してみるとヅカ氏が抜けた左滝の先にはルンゼが続き、私が突破した右滝の先にはまた苦労しそうな段差あり。よって私は小尾根を越えて左滝の先のルンゼに合流し、そちらから全員で登り続けました。

沢形が消えた後は若干の倒木に悩まされたものの笹藪は薄くて登高の支障にならず、ついに登山道に登り着きました。5人パーティーで滝ごとにロープを出していたために時間はかかりましたが、それでもリーズナブルな時刻に安全地帯へと抜けられて何より。高度感のある滝も少なくありませんでしたが、沢登り3回目でありながら臆せず登攀能力を発揮したエリーの頑張りは特筆ものです。お疲れさまでした。また、ここまでどうにかもってくれたお天気にも感謝です。

濡れることが気にならない程度の小雨の中、ブナ林の中のとても歩きやすい登山道をてくてくと下って駐車スペースに降り着いたときには15時を回っていました。大黒屋の日帰り入浴は15時で終了なので、手早く荷物をまとめて車で移動。那須温泉まで足を伸ばして1300年の歴史を誇る「鹿の湯」で汗を流しました。

事前のリサーチではさしたる困難のない癒し渓ということだったのですが、実際に遡行してみると見どころ・仕どころの多い沢で、ちょっとばかりアドレナリンを要し充実した沢登りとなりました。阿武隈川水系ではこの白水沢と共に甲子山に発する南沢もよく遡行されていますが、南沢も経験済のヅカ氏の評価では「白水沢の方が手応えがあった」とのこと。また、本稿の中で言うところの「奥の奥の二俣」から左に進んだためにトポを離れたことで事前情報のない滝にいくつもぶつかり、これを手探りで越え続けたのも沢登り本来のタフさを味わえた理由であったろうと思います。それでもやはりこの沢は、難しさよりも楽しさがまさる沢だという印象です。

白水沢には今回辿ったルート以外に右俣、右沢、そして左沢の本流筋といろいろな選択肢があり、さらに視野を広げれば南沢、一里滝沢、そして阿武隈川本流も遡行できるので、機会があればまたこの流域に足を運んでみたいものです。