乾徳山旗立岩中央岩稜〜頂上岩壁第一岩稜

日程:2019/08/18

概要:乾徳山の古いバリエーションルート、旗立岩中央岩稜と頂上岩壁第一岩稜を登る。

山頂:乾徳山 2031m

同行:セキネくん

▲旗立岩中央岩稜全景。上の画像をクリックすると、旗立岩中央岩稜の登攀の概要が見られます。(2019/08/18撮影)
▲頂上岩壁第一岩稜。ワンポイントだけの核心部を持つフレンドリーなルート。(2019/08/18撮影)

この週末はセキネくんと共に日月を使って1泊2日の山行の予定でしたが、天気予報はあいにく土日が晴れ、月曜日は雨。仕方なく日曜日ワンデイの山行とすることとし、そういうときのためにストックしてあるセカンドプランの中から、戦前からの古いゲレンデである乾徳山の岩場をチョイスしました。

2019/08/18

△09:20 大平高原 → △10:25-30 月見岩 → △11:10 懸垂下降開始 → △12:00-12:10 旗立岩中央岩稜取付 → △13:40 旗立岩中央岩稜終了点 → △13:50-14:00 頂上岩壁第一岩稜取付 → △14:10-30 乾徳山 → △15:15 月見岩 → △16:10 大平高原

乾徳山には徳和と大平という二つの登山口があり、前者をとるとそこそこ充実した山登り(つまり大変)になるのですが、我々はあえてそういう苦行を選択するはずもなく、セキネ号はこれでもかと車道を駆け上って標高1300mの大平高原に達しました。

駐車場代800円を払って出発。山頂方向にかかっている黒い雲が少々気になります。最初は車道を歩き、すぐに登山口の標識に導かれて山道に入るようになりました。石畳の大きさがこの山道を作った人の気合いの入りようを示しています。

ところどころ林道を横切りながら山道はぐんぐん高度を上げ、やがて水平な尾根道を辿るようになってしばらくしたところで不意に開けた草原に出ました。その真ん中にでんと構えている大きなボルダーが月見岩で、これだけで遊ぶこともできそうです。

再び登り道になり、名前のついた巨岩を横目に見ながらどんどん先を急ぎました。これまで二度も乾徳山に登っているセキネくんは、先ほどの月見岩から目指す懸垂下降点まで「10分か15分で着きますよ」と言っていたのですが、汗をかきながら一所懸命歩いても30分ほどもかかってしまいました()。

山頂が近くなり再び登山道が傾斜を緩めてすぐの場所の左手にケルンがあって、これが目印。ケルンのある広場の少し先に霧の中に落ち込んでいる岩稜は『日本登山体系』に書かれていた「無名岩稜」に違いないと見当をつけてその少し先に進んでみると、案の定、無名岩稜の向こう側の狭いルンゼに懸垂支点が設置されていました。興味津々の親子連れの質問に答えながらセキネくんは懸垂下降の準備を進めてくれましたが、「すぐそこに山頂があるのにどうしていったん下ってから登り返すのか?」という至極もっともな質問には、答えに窮したようでした。

ともあれ、狭いルンゼの中を下っていくとちょうど25mくらいでいったん開けたところに出て、そこにも懸垂下降のための支点が設置されていました。予習してきたところでは、これを気にせず引き続きガラガラの岩のルンゼを50mいっぱい下ってからさらに30mほど歩いて降りている記録と、この支点を使って岩壁を背に右の方へ方向を変えて下降しているもののふた通りがあったので、我々は試みに後者のスタイルをとってみたのですが、それによってどれくらい効率化が実現できたかは不明です。

懸垂下降を終えて右へ右へと進み、写真で見慣れた旗立岩中央岩稜(『日本登山体系』では「北方カンテ」)の下に到達。今回、私はアプローチシューズのまま登ってみようと考えていたので、全体の核心部となるこのピッチはセキネくんにリードをお願いしました。ところが、彼が取り付いて登り始めた途端にぽつぽつと雨が降り出し、見る間にその勢いは本降りに近いものになってしまいました。それでも慎重に高度を上げ、右に回り込んでハングを越えたセキネくんは、そこでカムを使ってピッチを切りました。続いて私の後続ですが、岩はすっかり濡れてフリクションを失っている上にホールドは外傾気味。クライミングシューズに履き替えるべきだったか……と後悔しても後の祭りで、やむなく何カ所かハーケンの頭を踏んでしまいました。登攀終了後にセキネくんと会話したところでは、彼もこのピッチは「普通に難しい」との評価で、私に対してもクライミングシューズに履き替えることを勧めようかどうしようかと迷ったそうです。

2ピッチ目は私のリードで、出だしの2mほど立った箇所をじっくりこなせば、後はこれといって難しいところはありません。前半はリッジ状、後半は緩やかなフェースの登りで、適当にカムやボールナッツを決めて高さを上げ、ロープの残りが10mとなったところでリッジ上の小ピークに着いたので、そこでスリングとカムで支点を作成しました。

3ピッチ目は再びセキネくんのリードで、向こうに見えている小ピークまで。セキネくんがそこに達してみるとハンガーボルトが二つ打たれていたので、どうやらここがルートの終了点という扱いになっているようです。

先ほどから天候は一進一退を続けており、ガスが晴れて周囲の岩場の様子が見えるようになることもあれば、雨が降って30m先が霞んでしまうこともありといった感じ。それでも終了点からは乾徳山の山頂を間近に眺めることができて、これから向かう頂上岩壁の様子を窺うこともできました。

いったん登山道を歩いて山頂直下の鎖場である鳳岩の足元に達し、左の方に降りているかすかな踏み跡を下降するとすぐにバンド状の道が現れます。これを岩稜を回り込むように進めば、そこが頂上岩壁でした。ここは私のリードです。

見上げたところではどこでも登れそう……という感じですが、実際、右寄りの緩やかなリッジを使えばランナーをとる必要性を感じないほど。ただしこのフェースのどんづまりから岩稜に乗り上がるところは多少歯ごたえがありそうで、その手前に残置ピンも集中しています。これらに確実にランナーをとってからしばし観察ののち、息を整えてからじわじわと岩稜に乗り上がれば、後は山頂までほぼ水平のリッジが続いているだけでした。

セキネくんにとっては3度目、私にとっては初めての乾徳山の山頂で、ギアを外して一休み。しかし先ほどからゴロゴロと遠い雷鳴が聞こえてきているので、あまり長居はできそうにありません。

ギアを片付け、行動食をとり終えたら下山にかかりました。すぐ目の下には先ほど雨の中の登攀を強いられた旗立岩中央岩稜が終了点から取付まで一望できて、少し悔しい思いをしました。登っているときに見通しがきいていたら、ギャラリーから応援してもらえたかもしれないのに……。

それにしても乾徳山の岩場は面白い。人工登攀のゲレンデになりそうな薄かぶりの大きな岩壁もあれば、フリクション全開のボルダリングの対象になりそうなのっぺりした岩もあって、飽きることがありません。

しかし、そんな具合に山や岩を愛でていられたのは下り始めのわずかの時間だけ。すぐに土砂降りと言っていいほどの強い雨が降り出し、追い立てられるように下山することになってしまいました。

教訓:雨予報の日はクライミングは控えよう。