小川山烏帽子岩左稜線
日程:2017/04/25
概要:小川山の西股沢右岸のロングルート「烏帽子岩左稜線」を登る。
山頂:---
同行:セキネくん
山行寸描
今年のアイスは盟友かっきーの負傷リハビリと私自身の膝の不調で思ったほどに登れていない。しかるに今年の南沢大滝は、発達が良い。そんなわけでセキネくんが休みをとれる4月下旬のこの日に今シーズン最後のアイスに行こうかという話にしていたのですが、桜も散って徐々に暖かくなるにつれ、アイスクライミングがシャワークライミングになってしまうのではないかという不安がよぎり始めました。そんな中、行程や装備の調整をメッセンジャーで行っている中で「行く前の情報で溶けていそうなら小川山どうでしょう?」という提案がセキネくんからあり、私も「最初からその計画で行きますか」と応じてこの日は小川山のマルチピッチとなりました。行き先は、かねて目をつけていたロングルートの「烏帽子岩左稜線」です。
2017/04/25
△07:10 駐車場 → △07:50-08:30 取付 → △13:05-30 終了点 → △14:25 駐車場
前夜落ち合ってセキネ号で「道の駅 南きよさと」まで行ってテント泊。明けてこの日、午前6時に出発し、途中のコンビニで朝食と買い物をしてから、廻り目平に入りました。さすがにゴールデンウィーク前のしかも平日とあって、人の姿はほとんど見掛けません。
快晴の空の下、ビクター方面に進んで堰堤の上流側を飛び石で渡渉。金峰山からの雪解け水のせいか水位はやや高めですが、足を濡らす気遣いはありませんでした。
西股沢右岸に入って上流方向へ歩くことしばし、アプローチボルダーまで行ってしまったら行き過ぎなので、少し戻ってケルンから樹林の中の踏み跡を辿ると、モレーン状のガレにぶつかります。このガレの上にも踏み跡があるので迷う心配はありませんが、霜柱も残っていてまだまだ気温が低いことを実感させます。
トポ(『日本100岩場 3 伊豆・甲信』増補改訂新版)によればモレーン上を15分も登ると、烏帽子沢が道俣と左俣に分かれるポイントに出る
ということになっているのですが、どうもよくわかりません。マラ岩を左に見て既にある程度登っているのでそろそろ右のはずだ、と目を凝らせば確かに右手にケルンが続いているので、このへんで樹林帯に入ってみるかと踏み跡を辿ったところ、これが正解でした。樹林の中に顕著な岩稜が上から降りてきており、あらかじめセキネくんがiPhoneに読み込ませていた記録の写真と照合すると、間違いなくこれが取付です。それではということでギアを装着しようとして、びっくり仰天。今回はセキネくんの60mシングルロープを使うことになっていたのに、私のリュックサックの中にも自分の50mロープが入っていました。しまった、余計な荷物を持ってきてしまった……と嘆いても後の祭り。仕方なく、無駄な重荷を背負ってのクライミングを覚悟することにしました。
1ピッチ目:セキネくんのリード。トポの1ピッチ目と2ピッチ目をつないで登りました。出だしはトポに書いてあるとおりの汚い溝ですが、それなりに立っているので侮れません。続く短いクラックは容易ですが、クラックの上から右にトラバース気味に位置を変えるのがバランシーでした。なお、デシマルでのグレード感覚は私の場合正確さを保てないので、以下の記述では体感グレード表記はしません。
2ピッチ目:私のリード。顕著なダブルクラック(というよりたくさんのクラック)のある壁を登るのですが、クラック登りが得意ではない私はあっちでもないこっちでもないと登りやすそうな場所をないものねだりで散々迷い、結局最初に「ここか?」と思われた正面のダブルクラックを登ることになりました。といっても、プロテクションはカムを使うものの、登り自体は豊富なホールドを用いたフェースクライミングです。クラックを抜けたら、安定したバンドを右へ進んで太い木にスリングをタイオフして支点を作りました。
3ピッチ目:セキネくんのリード。バンドの行き詰まりから頭上に見えている壁を登ります。出だしは何ということもない易しい階段状のクラック、そしてそこそこ高度が出てくるとともに傾斜が増し、ホールドが乏しくなってきます。最後は直上するラインもあったかもしれませんが、セキネくんは残置ハーケンから右へ回り込み、正面の岩溝を迂回するラインとしました。正規のラインは直上ではないのかな?と思いながら私も迂回ルートを後続しましたが、横から見ると真っすぐ登るラインはかなり立っており、なかなか厳しそうです。
4ピッチ目:お日様があたって明るい岩稜歩き。簡単。
5ピッチ目:樹林の中の岩から木登り。ちょっと不快。
6ピッチ目:私のリード。ブッシュを終えたところの右にあるボロい壁を越すと堅くフリクションがよく開放感のある岩尾根になり、残置ハーケンもあるリッジを楽しく越えて顕著な岩の割れ目へ。ここでピッチを切ってもよかったのですが、もう少し伸ばせるということでさらにこの割れ目を越え、岩尾根の右側突き当たりのコーナーに残されたリングボルト2本で支点を作りました。ここはトポで言うと9ピッチ目の途中ということになります。眼下には廻り目平と周辺の岩場が一望の下に見渡せ、すこぶる快適です。
7ピッチ目:セキネくんのリード。コーナーを登って岩尾根の左側に出るとすぐに、トポに一瞬怖いトラバース
と説明されているバンドがありますが、バンド上に見えているホールドにだまされて足ブラになったのでは本当に怖い目に遭いそうで、実はバンドの上で思い切りしゃがみ込む姿勢になると目の前の壁の下にアンダークリングが利くポイントがあって不安なく渡れます。
8ピッチ目:私のリード。この辺りのかつての造山作用(?)のダイナミックさを想像させてくれる幅の細い板状のリッジの上を渡って、向こうの岩稜を右上へ登っていく、これまた露出感のあるピッチ(トポでは11ピッチ目)。ロープいっぱいまで伸ばしてピナクルで支点をとって振り返ると、相当の高度感です。
9ピッチ目:セキネくんのリード。トポで言えば12ピッチ目と13ピッチ目をつなぎました。少し下って易しいリッジを進み、どんづまりの壁に縦に走る顕著なハンドクラックを登ります。セキネくんはここを危なげなく登って岩の上からOKサイン。後続の私はロープをしまったままの背中のリュックサックの重みで引き剥がされそうになりながら何とか登りましたが、途中で足がミシンを踏み出して往生しかけました。なお、このクラックには回収できなくなったカムが残置されていますが、動くからと欲をかいて回収しようとがんばると腕力を吸い取られることになっているので要注意です。
10ピッチ目:クラックを登りきったところが烏帽子岩本峰の一角で、そこから雪の残った踏み跡を進むと右側の壁にかつての開拓で設置されたらしい終了点が残されていました。これを右に見てから左方向へリッジを下っていくと、木にスリングが巻きつけられカラビナがセットされた懸垂下降点があります。
11ピッチ目:リッジの懸垂下降。振られないように注意。
12ピッチ目:セキネくんのリード。クラックの走った小岩峰を左から回り込むように越えると、その先もかっこうの水平クラックがフットホールドを提供してくれて、その先の大きな岩峰の真ん中にあるボロいチムニーに入ります。チムニーを抜けたらすぐ右上へわずかに登ると、そこに明瞭なギャップがあって懸垂支点も用意されていました。
13ピッチ目:短い懸垂下降。
14ピッチ目:本当は降り立ったところから岩を登り返すべきだったようですが、そのままさらに下って樹林の中を歩きました。
15ピッチ目:私のリード。顕著なワイドクラック。出だしのムーブを組み立てるのに時間を要しましたがどうにか突破すると、続く階段状のフェースの上が、最終ピッチのチムニーの基部になります。
16ピッチ目:セキネくんのリード。リュックサックを下ろし、ウインドヤッケも脱いでフリクションに備えてチムニーの中に入っていきました。かなりの奮闘だったように思いますが、それでもさすがはセキネくん、背中と膝を壁につけ足裏は前ではなく背中側の壁に当てる要領でじわじわと高さを稼ぐと、ついに岩塔の上に立ちました。
正面フェース側からまずセキネくんのリュックサック、ついで私のリュックサックの荷揚げをしてもらってから私も後続しましたが、チムニーの中は思ったより狭い!私よりずっと体格のいいセキネくんがこの狭いチムニーをどうやって突破したのかいまひとつ謎ですが、これは私の手に余る感じ。しからばとセキネくんに「三つ目の荷揚げ」をお願いしました。すみませんねえ。
上と下とでの奮闘の末に、ようやく2人で終了点に立つことができました。セキネくん、お疲れさまでした。
終了点の少し先に安定したコルがあり、そこでシューズを履き替え、行動食を口にしてほっこり。セキネくんの1ピッチ目離陸が8:15頃で私の終了点到着が13:05でしたから、4時間50分で登攀を終えたことになります。ゴールデンウィーク前の平日とあって他のパーティーに出会うこともなく、スムーズに登ることができました。
振り返れば正面に小川山があり、その裾野に大小さまざまな岩場が点在しているのがよくわかります。「ガマルート」も見えていますし、「小川山レイバック」もはっきりとその特徴的な形を見せています。もちろん、屋根岩の岩峰群も立派です。
展望を楽しみ終えたら、コルから右手のガレを下ります。道はすぐに樹林帯の中の落ち着いた斜面になり、テープを気にせず適当に下り続けていたら、いつの間にか傾斜が緩んでケルンのある場所に飛び出しました。そこからアプローチボルダーまでは、ほんの少しの歩きです。
「烏帽子岩左稜線」ルートは、フリーのマルチピッチというよりはアルパインルートとして考えた方がしっくりくる感じでした。まずもって必要なのは山屋の体力、ついで大きめサイズのカム(5番が使えました)でしょうか。ともあれ、天気にも恵まれて楽しいクライミングができました。核心部では終始文字通り引っ張ってくれたセキネくん、ありがとう!
帰路は桜を愛で、鯉のぼりを愛で、富士山を愛でての帰京となりました。どうやらこれで本当に、今シーズンのアイスクライミングは終了となったようです。