塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

湯檜曽川本谷

日程:2009/09/05-06

概要:武能沢出合から湯檜曽川に下り、十字峡から本谷に入って遡行。40m大滝の上でテント泊し、翌日さらに沢筋を詰めて朝日岳山頂着。下山は白毛門経由で土合へ。

山頂:朝日岳 1945m

同行:オグ

山行寸描

▲10m垂直滝。上の画像をクリックすると、湯檜曽川本谷の遡行の概要が見られます。(2009/09/05撮影)
▲40m大滝。ほぼ真ん中までノーザイルで上がることができる。(2009/09/05撮影)
▲泊まり場。我々は手前のテントの奥の1段高い草の上にテントを張ったが、奥にいる4人パーティーは樹林帯の中にテントサイトを求めた模様。(2009/09/05撮影)

上越の沢の代表格である湯檜曽川本谷には、これまでなぜか遡行する機会がありませんでした。この週末の遡行も本はといえば笹穴沢へ行こうと思っていたのですが、先日北岳へご一緒した常吉さんから「笹穴沢のアプローチにはヒルが出る」という情報を得て、速攻で行き先を変えたものです。同行はこれまでも何度か一緒に沢に行っているオグですが、お嫁さんをもらってからの幸せ肥りで10kgは体重オーバーというところが気にかかります。

2009/09/05

△08:45 土合駅 → △10:20-45 武能沢入渓点 → △12:30 十字峡 → △14:35 10m垂直滝 → △15:55 40m大滝 → △16:30 40m大滝の上の河原

東京から朝一番の電車を乗り継いで、土合駅の階段を息を切らしながら登りきると、白い雲がぽくぽくと浮いてはいるもののおおむね青空。沢登りの日和としては申し分ありません。湯檜曽川沿いのよく踏まれた新道をノンストップでひたすら歩いて1時間半ほどで左斜面から武能沢が落ちてくる場所に到達し、ここで沢装備を身に着けました。武能沢を下って湯檜曽川の河原に降り立つと、そこから上流すぐの位置にゴルジュの入口が待っています。

最初のポイントとなる魚止滝は、左の壁に残置ピンとスリングが2カ所連続しており、さらにフィックスロープまで用意されていました。魚止滝の上流は右岸の灌木の中を進み、明るい河原に出てからは開放感に満たされた遡行です。

ナメや釜や小滝を越えて、白樺沢の先で90度右に曲がったところにあるのがガイドブックに学校の廊下を水浸しにしたようと形容されているウナギ淵。私は以前大倉沢を遡行したときにここを泳いで通過しているので、今回はオグに泳いでもらい、自分は左岸の岩壁の上を歩きながら監督することにしました。がんばって泳いだオグでしたが、淵を抜けたときはかなり消耗した様子……。さらに左に曲がるところの水量豊富な滝は左壁をIII級程度の登りとなって、続く3段30mのナメ滝を気持ち良く登っていくと十字峡になりました。正面には抱返り沢の50mの滝、右からは懐かしい大倉沢が落ちていますが、目指す本谷は1段上がって左へ直角に折れたところです。それにしてもこの辺りはカクカクと90度に曲がる箇所が多いのですが、なぜこんな地形になったのだろうか?

十字峡を左に入れば、そこからは私にとっても未体験ゾーンです。まずは白い岩が明るくて車道のように真っすぐなゴルジュの通過ですが特に難しいところもなく、上を行けば残置スリングはあってもあえて水線近くでのフリーにこだわりたいへつりや、樋状の滝の手前で意外に高度感のあるトラバースなどを経て、やがて正面に右から落ちてくる大きな滝=抱返り滝に出会いました。水量はさほどではなく下段はそのまま登れそうですが、我々の力量からすると上段はちょいと渋そうなので左の踏み跡に入り高巻きとします。適当なところから薮を漕ぐように下ると再び踏み跡に合流して落ち口のすぐ上に抜け、その先にはエメラルドグリーンの美しい釜と白いナメ滝が待っていました。

その先も明るい沢を適当にラインをとって歩いたり泳いだりしているうちに、滝が続くようになってきます。まず最初の10m3条滝を左手の岩の隙間から簡単に抜けて越えると続いて七ツ小屋沢出合ですが、うっかりするとそのまま直進して七ツ小屋沢に入ってしまいそう。本流は右手から小滝となって落ちてきている方で、ここは階段状を簡単に上がると自然の導水路になっています。さらにいくつか小滝を越えたところにある河原では、早くもテントを張っているパーティーがいました。確かにこの時刻(14時半頃)に腰を落ち着けて、薪を集めたり酒を飲んだりしたら楽しいことこの上なしだろうけど、ここからでは明日の行程が遠くなるんじゃないかなあ……というのは余計なお世話なので、挨拶を交わして我々は先を急ぎます。

続く10m滝を左から巻いて数分で小さな前衛滝の向こうに現れたのが10m垂直滝で、ここはとりわけ楽しいところです。「どうやっていく?」「……左からですか?」「では私が手本を」といったやりとりの後、おもむろにメガネをウエストポーチにしまって滝の右側からアプローチし、瀑水の裏手に入り込みました。目の前は手元の岩以外何も見えなくなりますが水圧は思ったほどではなく、滝の右から左へ斜上するランペも明瞭で、すぐに滝の裏を抜けて左側の岩壁の途中にあるテラスに達することができました。

ここでオグが後続してくるのを待ちましたが彼も臆することなく突破してきて、後は滝の上まで数mのIII級程度の登りです。その先は40m大滝まではこれといった滝もないだろうと思っていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。ちょっと面白い形状の小滝が現れて、ここはつるつるの岩を微妙なフリクションで水流の右から左に渡り、滑りやすい樋状になっているところに右足をハイステップで上げて甘いホールドに耐えながら乗り込めば突破できるのですが、私とオグの微妙な身長差が出てオグは足を上げきれずに四苦八苦しているうちにスリップ!3mほどの滑落をしてしまいました。

もっとも、ここは滑り台状で怪我をするような場所でもなかったので心配はしていなかったのですが、諦めたオグが左からの巻きにかかったところで足元の草付が崩れ、何とか態勢を立て直したもののもう1回ずるっといって危うく大滑落となるところ。見ているこちらも肝を冷やしました。どうにか薮を漕いで巻き上がることに成功したもののオグの心身のダメージは大きかった模様で、続く赤茶けた2段滝の手前で足がつってしまい、小休止となりました。私の方はその間に2段滝の様子を偵察してみましたが、下段は左からのランペで簡単に登れるものの、上段はすり鉢状になっていて登れる気がしません(登っている記録もあります)。よって回復したオグを督励して、1段目の手前右手から大きく巻くことにしました。ここでは上越の沢らしい草付のトラバースを味わうことができますが、踏み跡は明瞭で慎重に行けば問題はありません。

高巻きを終えて沢筋に戻り、蛇行する樋状の滝を難なく抜けると、その先にいよいよ40m大滝が現れました。確かに見た目は立派ですが、実は水流の左側からは階段状になっていてかなり上の方にあるテラスまですいすいと登れてしまいます。そこから先は水流通しはちょっと無理っぽいのでセオリーに従って左の壁を見上げてみると、残置ピンやスリングが目に入りました。どうやら核心部となりそうな垂壁は2m程度らしく、2カ所にスリングが垂れ下がっていましたがそのうち左(下流)側の小カンテに狙いをつけて、テラスから1段左に上がったところにある残置ピンにスリングをかけてオグにビレイ態勢に入ってもらいました。よいしょと身体を引き上げてから自前のスリングでクリップして核心部の小カンテに手を掛けてみると、ホールドはしっかりおりフットホールドも一応あって、ワンムーブIV級というのが妥当な線。そのまま真っすぐ20mほどロープを伸ばしたところで灌木に支点を作り、オグを迎え入れて上流を見ると、滝の落ち口へはちょうどこの高さからルンゼを横切って草付の端に真横に踏み跡が続いていました。

40m大滝の落ち口から数分の河原に2組のパーティーが寛いでおり、オグに待機してもらって空身でさらに上流を偵察しましたが、その先手応えのありそうな滝までの間に幕営適地は見つからなかったので、我々もここをこの日の宿とすることにしました。これで期待通りに楽しかったこの日のイベントは全て終わりです。

先客は男女4人組と、50歳代らしき男性2人組。2人組の方は堂々と河原にテントを張っていましたが、4人組はどうやら左岸の樹林帯の中に踏み入ったところにテントサイトをしつらえてあるようです。我々はといえば夜中に雨が降って増水しても困るので、河原から1mばかり高くなった草の上を整地してテントを張りました。4人組はこれでもかというくらい薪を積み上げて焚火を熾していて、たぶん樹林帯の中からそれらを調達したのだと思いますが、出足の遅れた我々は焚火は断念し細々と梅酒で乾杯。つまみだけはなぜか豊富です。そのうち2人組の方もおもむろに河原で薪集めを始めたのですが、大した戦果もないままに腰を落ち着けてしまって「あんなに少ない薪じゃ火も点かないんじゃないか?」と思っていたら、新聞紙1枚で見事に着火させたのには驚きました。

2009/09/06

△06:40 40m大滝の上の河原 → △07:40 二俣 → △09:55-10:25 朝日岳 → △11:35-45 笠ヶ岳 → △12:40-55 白毛門 → △15:50 土合駅

寒い思いをすることもなく快適な睡眠をたっぷりとって、5時前起床。のんびり朝食をとり、朝のお勤めも済ませてから霧の中を出発しました。

立体的な地形の中を進むと、霧の中に立派な10m滝が現れました。これを右の傾斜が立った踏み跡で越え、さらにいくつかのそこそこ手応えのある滝を登っていきましたが、この辺りは岩の色が黒っぽく、ガスに覆われて空が見えていないこともあってちょっと気が滅入ります。そのうちここまでの酷使に負けたのかオグの沢タビのソールが剥がれかけてきたため、テーピングテープで応急処置をしました。

沢の横でちょうど出発準備中の4人組の脇を通り過ぎると、すぐそこが二俣でした。ここは二俣のすぐ手前の右岸に1段高くなった立派なテントサイトがあって、なぜかブルーシートが残置してありましたが、テントが2張りは楽に張れる広さです。この二俣は右へ進みましたが、その先にも何カ所か整地されている場所があって全部使えばかなりの収容能力がありそう。実際、この土日に湯檜曽川本谷に入ったパーティーは相当の数に登った模様で、どういう根拠に基づくのかは不明ですが「50人は入っている」と言っている遡行者もいました。

岩の色が黒から黄色に変わった後にガメラの背中のようなボコボコのナメを過ぎると、源流帯の雰囲気が徐々に漂い始めます。他のパーティーとも前後しながらぐんぐん高度を上げると背後が開けてきて、奥の二俣も右へ進めばやがて水は涸れ、覆いかぶさる笹と灌木を漕ぐようになりますが、かなり高いところまで沢形が残っているので進路に迷う心配はありません。そして笹の背丈が低くなり、傾斜も緩やかになったところでひょいと草原に出て、その先には朝日岳山頂に憩う人々の姿が見えていました。

幕営地から3時間余りのアルバイトで朝日岳山頂に到着し、オグと握手を交わしました。このピークを踏むのはこれが4回目ですが、周りを見回すと、あるいは湯檜曽川から、あるいはナルミズ沢からとそれぞれに遡行を終えた沢登ラーだらけ。一般登山者よりも沢登ラーの方が多いくらいでした。ともあれギアをしまい、後はのんびり下山するだけ……と言いたいところですが、朝日岳から土合まではアップダウンのある縦走路が続いており、気温が高くなってきたこともあって意外に絞られます。山屋としてのトレーニングを積んでいないオグにはむしろこの縦走の方がこたえたらしく、息を荒くしながら必死の形相で歩き続けていました。

白毛門から土合への長い下りは私にとってもつらいものですが、オグにとってはほとんど拷問です。気力体力を使い果たしたオグは、最後はパンチドランカーのようにふらふらになりながら、それでも驚異的ながんばりで下界に降り立つことに成功したのでした。お疲れさま!でも、次回までには10kgは痩せておかないとね。

下山後は、土合の駅前からバスで水上へ。観光案内所で教えてもらって徒歩10分のホテル聚落の風呂に入りました。通常1,000円のところ観光案内所で割引券をもらっておけば800円、広くて気持ちの良い風呂でした。

そして水上駅前に戻ったところでお食事処「ちゃこ」の「サービスしますよ!」という積極勧誘に乗って「谷川ぶっかけおろしうどん」なる超盛りだくさんなうどんを食しましたが、これもかなりイケています。具だくさんのうえに手作り感あふれる不揃いなうどんがおいしく、くせになりそう。次に水上で食事をすることになったら、またこのお店に入るかも。