錫杖岳前衛壁1ルンゼ

日程:2008/09/14

概要:錫杖岳前衛壁1ルンゼを詰め、上部は左のフェースへ。下降は同ルート。

山頂:---

同行:現場監督氏 / ヤマダくん

山行寸描

▲ガスの中に浮かびあがる錫杖岳前衛壁。左の白壁の右が1ルンゼ、顕著な切れ込みの手前側が3ルンゼ。(2008/09/14撮影)
▲核心部の6ピッチ目を登る私。上の画像をクリックすると、1ルンゼの登攀の概要が見られます。(2008/09/14撮影)
▲6ピッチ目を上から見たところ。典型的な内面登攀となる。(2008/09/14撮影)

敬老の日の三連休は現場監督氏及びヤマダくんと奥又白池にベースを張って前穂高岳のルートを登る予定でしたが、直前の天気予報では中日が雨。金曜日の夜に車で発つ予定を中止にしてリスケジューリングを考えることにしました。ところが翌土曜日の朝に天気予報を再確認すると後半2日が晴れに変わっており、急遽連絡をとりあって、とにかく信州に向かいながら行き先を考えることにしました。横浜駅西口で落ち合った現場監督氏とヤマダくんは初対面。協議の結果、ルートがある程度ポピュラーで、しかもアプローチが短く時間を有効に活用できる錫杖岳にしようということになりました。ヤマダくんと私は昨年左方カンテを登って土地勘もありますし、そのときは私の膝の故障で1ルンゼを登り損ねていたので、いわばリベンジという意味もあります。膝の具合は相変わらず思わしくありませんが、先月の北岳でも登りに関してはだましだまし行けたので、今回も何とかなるはずです。ヤマダ号で横浜駅を発ってから中央自動車道に乗るまでに3時間もかかってしまいましたが、その後は渋滞に巻き込まれることもなく松本に達し、安房トンネルを抜けて13カ月ぶりの中尾温泉口駐車場に到着。ヘリポートにテントを張り、ヤマダくん持参のビールで前祝いをしてから就寝しました。

2008/09/14

△06:30 中尾温泉口 → △07:45-08:35 錫杖沢出合 → △09:05 左方カンテ取付 → △09:15-30 1ルンゼ途中 → △09:50-10:00 1ルンゼ取付 → △14:30-15:20 1ルンゼ終了点 → △16:50-17:00 1ルンゼ取付 → △17:30 錫杖沢出合

朝食のラーメンを胸焼けをおこしながら食し、ガスが流れる微妙な天気の中をおもむろに出発。昨年は2時間かかった道も、今回は1時間余りで錫杖岳前衛壁を見上げるところまで着きました。しかし河原のテントサイトは意外にも満員御礼状態で、昨年我々がテントを張った隠しポイントも先客に占有されています。仕方なく、さらに1段上流の狭い場所にヤマダ・塾長組と現場監督氏との二手に分かれて仮の宿を確保してから、ただちに1ルンゼを目指しました。

道筋を間違えて左方カンテの取付に着いてしまいましたが、人気ルートだけあって数名のクライマーが順番待ちの様子。アルパインガイドの木元哲さんの姿も見えました。そのままヤマダくんを先頭に岩壁沿いを右へ歩きましたが、1ルンゼの取付は右下へ下がるはずなのに道はほぼ水平、さらに進むと少し上がってきます。「はは〜ん、これは」と思ったときは既に遅く、1ルンゼの途中に出てしまいました。左方カンテの取付広場からI〜II級のチョンボ道の歩きで1ルンゼのF1の上に出ることはトポでわかっていましたが、こんなに平らな道だとは思っていませんでした。しかもそのトポには、F1を省略しては面白みは半減すると書かれています。仕方ない、ここから懸垂下降です。ちょうどそこにはソロシステムで1ルンゼを登っているクライマーがいて、彼が回収のために下降するのを待って我々もロープを下し、2ピッチの下降で取付に降り立ちました。

仕切り直しで登攀開始。懸垂下降中は「ひえ〜、こんな立った壁を登るのか!」と半ばびびり気味でしたが、とにかくオーダーを決めなければ話になりません。トポによれば全部で8ピッチで、これを二つに分けることにして前半はフリーの得意なヤマダくん、後半は人工登攀に多少慣れている私、その代わり現場監督氏は明日の3ルンゼをオールリード、ということで談合が成立しました。

1ピッチ目(35m / IV+):以下4ピッチ目までヤマダくんのリード。凹角の左から右上に1段上がり、立ったフェースを縦ホールドを頼りにぐいぐい登っていきます。岩はしっかりしており、残置ピンも適度にあって快適です。

2ピッチ目(25m / V):出だしの3mの垂壁が核心部で、左寄りに1段上がってから細かいフットホールドに立ち込みつつ横引きのホールドで身体を支えることになりますが、リードのヤマダくんは残念ながら残置スリングをつかんでしまいました。セカンドの私はヤマダくんの巧みな足さばきをまねて2m上がり、そこから上の段に乗り上がるところで左手がかちっと決まる横引きホールドを見つけることに成功。後は簡単にヤマダくんのもとへ登り着きました。ここがF1の上で、最初に左方カンテから横に歩いて合流した地点です。ここで上の方から声が降ってきたので見上げると、声の主は正面頭上に聳えているV字岩壁ルートを登っている3人パーティーで、落石の危険があるのでルンゼ通しではなくルンゼ左のカンテを行ってほしいとのこと。実はこのときまでカンテを行くラインがあることを知らなかったのですが、特にこだわりがあるわけではないので「なるべくルンゼを離れます〜」と回答しました。それにしてもV字岩壁ルートは露出度の高い厳しそうなラインで、チャレンジしがいがありそうです。

3ピッチ目(40m / IV):短いF2を登って傾斜が落ちたところから、いったんルンゼを離れて左側の立ったカンテに乗り移りました。なかなか厳しい傾斜ですが、うれしいことにビレイポイントは安定したテラスになっています。ガスもすっかりとれて晴れてきました。

4ピッチ目(40m / III):ここから右へルンゼに戻ることもできますが、ヤマダくんが選んだのは引き続きカンテ通しに登るライン。ちょうどここで先行していた単独のクライマーと並ぶことになり、彼が下降するところで順番が入れ替わって我々が先行することになりました。しかし、どうやらこのカンテは登りすぎずに適当なところで右のルンゼ側へ入るのがよかったようです。

5ピッチ目(30m / III+):ここから最後まで私のリード。カンテをそのまま数m上がってみましたが、ルンゼに戻るためには懸垂下降が必要な場所に出てしまったのでいったんクライムダウン。しかし我々がいる位置はルンゼへ通じるバンドからまだ1段高いところにあるため、さらに下へロワーダウンで下ろしてもらってから、傾斜の緩いフェース〜チムニーを登り安定したテラスへ。残りの2人には上から引っ張ってずるずるとクライムダウンしてもらおうと思っていましたが、見ると出だしのテラスから右横に隠れたバンドがあって簡単にルンゼ内に戻れることがわかり、その旨を指示して後続してもらいました。

6ピッチ目(40m / IV+,A1):後半の核心ピッチ。狭いチムニーを垂直にむりやり登って、二俣に分かれたところを右のチムニーに入り、残置スリングをつかんでいったん安定しました。ここまで細かいホールドに支えられた内面登攀が続きますが、難しくはあるものの岩はしっかりしており恐怖感はありません。

続いて残置スリングからチムニーの左側を覗いてみると、残置クイックドローが一つ、そしてその向こうには(下からも見えていましたが)御丁寧に赤いアブミが残してありました。チムニーの途中にはカムまで残置してありまったく残置の多いピッチだと呆れましたが、もちろんアブミは回収に失敗したもののようです。ともあれ、ありがたくクイックドローとアブミを借用してチムニーの左側のフェースに移り少し左上したところにあるビレイポイントにクリップしましたが、まだロープは半分しか出ていません。真上を見ると1ルンゼが上へと続いておりそちらにも残置ピンはありそうですが、水がしみだしていて見るからに不快。一方、左上には乾いたフリクションのききそうなフェースが広がっており、残置スリングも見えているのでそちらを目指すことにしました。まずはいったん左下へ下降気味にトラバースし、簡単に剥がれそうな薄いフレークにそっと乗り上がってこれを越えると、左上に安定したビレイポイントが見えました。

7ピッチ目(25m / IV):左上に広がるフェースの右端に突き出た岩の右側V字状のディエードルを突き当たりまで登って、左のフェース最上部のビレイポイントを通過し、狭いルンゼ状を1段上がってビレイ。ここから右上には草付が見えていて終了点が近いことがわかりますし、ロープは半分なのでさらに伸ばせたかもしれませんが、急ぐ旅でもなし、後続の2人の写真を撮る都合上短めに切ることにしました。

8ピッチ目(20m / IV):最終ピッチ。左上に続くチムニーを大股開きでかっこ悪く登りました。核心部のピッチもそうでしたが、こういうあの手この手で突っ張りながら泥臭く登るピッチが、自分は意外に好きです。横断バンドに達すると、先ほどV字岩壁ルートを登っていたパーティーが登攀を終えてこちらにトラバースしてきているところ。挨拶を交わしてビレイポイントを共有しました。前方すぐ上に稜線が近く、山屋の感性としてはあそこまで登りきりたいところですが、時間も押しているので今日はここまでです。その代わり振り返れば焼岳が近く、その坊主頭をもたげて貫禄がありました。

2パーティー6人が揃った頃には、我々と前後していた単独の方はもとより、後から来ていた2人パーティーも最終ピッチの手前から一足先に下っていったようなので、V字岩壁パーティー、ついで我々の順に下降を開始しました。2ピッチ下るとルンゼの中で、そこからはルンゼの地形に忠実に下って行き、途中のテラスで順番待ちのかたわらルンゼの右岸側に垂直に聳えている白壁を見ると、ところどころにボルトが打たれているのが見えてあんなところ登れるのか?と3人で驚いて見上げましたが、後で調べてみたところどうやら1ルンゼ左ルート〜白壁ルートで、一月前にRight&Fastの2氏によってフリー化もされていました(白壁ルート部分は最高5.11a)。ま、これは私にはムリですな、と反対側のV字岩壁を見上げてみたところ、確かにボルトが随所に残されておりこちらはなかなか面白そうです。上で聞いたところでは、岩の剥離には要注意ながら支点はそこそこ安定しているとのことだし、現場監督さん、そのうちどう?

都合5ピッチの懸垂下降で取付に帰還。ガチャ分けをしてから樹林の中の道を下り、テントに戻りました。

ひとしきり片付けを終えた後は、焚火・パスタ・ソーセージ・山のおしゃべり・梅酒な夜。20時すぎには就寝しました。

◎「錫杖岳前衛壁3ルンゼ」へ続く。