鹿島槍ヶ岳東尾根

日程:2004/05/01-02

概要:大谷原から鹿島槍ヶ岳東尾根を登り、二ノ沢ノ頭に幕営。翌日、鹿島槍ヶ岳を越えて赤岩尾根経由大谷原へ下山。

山頂:鹿島槍ヶ岳 2889m

同行:Niizawa氏 / Sakurai氏

山行寸描

▲二ノ沢ノ頭から見る荒沢ノ頭。上の画像をクリックすると、鹿島槍ヶ岳東尾根の登攀の概要が見られます。(2004/05/01撮影)
▲核心部の第二岩峰手前のトラバース。ロープをつけているが、ここはコンテ。(2004/05/02撮影)
▲山頂へと続く雪稜。2日間凄い好天に恵まれた。(2004/05/02撮影)

仲間うちでは今年の黄金週間は北鎌尾根へ行こうという話を去年からしていたのですが、諸般の事情からさらに1年延期することにし、おなじみおやぢれんじゃあ隊のマラソントリオ=Niizawa・Sakurai・塾長の3人で鹿島槍ヶ岳の東尾根を目指すことにしました。ちなみに隊長の現場監督氏は2日前にひろた氏と同じ東尾根を登っていて、我々に「このルートは体力勝負!努めて軽量化を」とのアドバイスをくれていました。そこで出掛けにリュックサックの重量を計ってみたらちょうど19kg。アイゼンやギアを身につけロープを結べば、背中はぐっと軽くなるはずです。

2004/05/01

△09:45 大谷原 → △10:10 東尾根取付 → △13:05 一ノ沢ノ頭 → △14:15 二ノ沢ノ頭

東京を朝5時にNiizawa氏の黒いチェロキーで出発して、9時半には大谷原に到着。大冷沢にかかる橋を渡ったすぐのところに車を駐めて、身繕いして出発しました。沢沿いの林道をしばらく歩くと右手の尾根への取付が赤布ではっきりわかるようになっており、そこから笹や小灌木の間にカタクリが目立つ急坂を登ります。尾根上に出るあたりから積雪が現れはじめ、踏み跡を辿りながらひたすら高度を上げていきました。天気がいいのはありがたいのですが、今日は無風でとにかく暑く「せめて風がほしい!」と文句を言いながら、上衣を半袖にして汗をかきかき登り続けました。

樹林帯を抜けたらすぐに一ノ沢ノ頭で、その小広いピークに既にテントを張っているパーティーもいましたが、まだ時間にゆとりがあるので予定通り二ノ沢ノ頭まで前進することにし、ここでアイゼンを履きました。いったん小さく下ってから細い尾根上を1時間ほどで二ノ沢ノ頭に到着すると、こちらも10張はテントを設営できそうなドーム状のピークで、快速を飛ばして先行したNiizawa氏は早くも絶好の位置に地所を占めて基礎工事の最中でした。3人協力してNiizawa氏の大テントを張り、さらに私は階段つきの立派な半地下式トイレを作って、後は昼寝タイムです。本当は一日の労働を終えてビールで乾杯といきたいところでしたが、「軽量化」の3文字が念頭にあったのと最後に入ったコンビニにアルコールがなかったのとで残念ながらビールは持ってきていません。Niizawa氏がSakurai氏に「ちょっと下までビールを買いに行ってきてよ」と無茶なことを要求していましたが、私も内心では(本当に買いに行ってきてほしい……)と思っていました。

夕方ごそごそと起きだして夕食をとり、シュラフをのべてその中に入ると、19時くらいには寝入ってしまいました。私はエアマットを持ってきておらずリュックサックの背当てを抜いてマット代わりに使っていたので、三季シュラフでは背中がちょっと冷たかったのですが、時折寝返りをうちながらおおむね暖かく眠れました。また夜中の12時頃から風が強くなりごうっという音が鳴り続けていて、そういう意味で「風がほしい」と言った訳ではないと鹿島槍ヶ岳に抗議(?)しましたが、幸いテントが揺れることはほとんどありませんでした。

2004/05/02

△04:40 二ノ沢ノ頭 → △05:55 第一岩峰取付 → △08:15 第二岩峰取付 → △10:25-30 鹿島槍ヶ岳北峰 → △11:10-35 鹿島槍ヶ岳南峰 → △12:35-13:10 冷池山荘 → △13:25-35 赤岩尾根分岐 → △16:15 大谷原

午前3時、Niizawa氏の携帯から「アルプスの少女ハイジ」(♫口笛は、なぜ〜)が鳴り響きました。手早く朝食を済ませ朝のお勤めのために外に出てみると、風はさほど冷たくなく、東の空がうっすらと明るくなりつつあります。頃合いを見計らってテントを畳み、朝日が上がる前に出発。二ノ沢ノ頭には我々以外に3張りのテントがありましたが、我々が先頭に立つことになりました。東尾根の核心部はひどく渋滞することがあると聞いていたので、これはラッキーです。

二ノ沢ノ頭を下ってトラバース、そして雪壁の急登。雪は思いの外に軟らかく、日が昇ってきたらさらに状態が悪くなりそうです。とにかくがんばって登って第一岩峰の基部に到着したところ、あらかじめガイドブックなどで見た写真に比べてはっきり雪が少なくなっていました。ここは各自フリーで登ることもできそうですが、安全第一でロープを出すことにして、手前の雪稜上の整地跡(おそらく現場監督氏たちが幕営したところ)でアンザイレンしてから近づきました。正面の岩壁もホールドがしっかりしていて登れそうですが、右に回り込んだガリーがより容易に思えたのでこちらを選択したところ、確かに簡単ではあるものの雪が消えた直後で浮き石が多くて気を使う登りとなり、支点もとりづらく難渋しました。途中雪に半ば埋もれたフィックスロープがあり「こんなところにフィックス?」と驚きましたがもちろんノータッチ。2ピッチで抜けて、緩やかな雪壁に移りました。そのままコンテで進んだところ途中ハイマツ帯でルートを見失いかけ、クライムダウンしようとしたら足下の雪が崩れるといった場面もありましたが、基本的には雪壁をひたすら左上して第二岩峰へと向かいました。

右の方に天狗尾根を登る登山者の姿を見ながら誰もいない第二岩峰に到着。状況によっては空身になることを考えていましたが、見た感じそのまま行けそうです。Niizawa氏に残置ピンと岩角で確保態勢を作ってもらい、私のリードで登りました。最初は階段状の易しい岩場で、途中ワンポイントでIII級程度の岩の乗り越しがありますが、要所に残置スリングがありランナーをとるのには困りません。核心部と言われるチムニーに入ってみると意外な小ささに思わず「なんだ、こんなものか」と声に出してしまい、しかもここにも立派過ぎるフィックスロープが張られていて幻滅しました。とりあえず事前の打合せどおりいったんここでピッチを切り、Sakurai氏にはチムニーの入口まで、Niizawa氏にはその下のテラスまで上がってもらいました。

チムニーの右上に垂れているスリングにランナーをあらかじめセットしてから、再び登攀継続。どうやら左壁のフットホールドを使うのが「吉」と見えてきたので、フィックスロープの手前側に立ってまず右の低い岩壁のかすかな凹凸にアイゼンの前爪をかけ、よっこらしょと左足をくだんのフットホールドに上げて手を伸ばすと、チョックストーンの向こう側がガバホールドでした。後は落ち着いて身体を引き上げて「よし、抜けたぁ!」の気合とともにチョックストーンの上に立ちました(IV-)。そこから小さく左に回り込んで階段状を登れば立派な終了点に到着で、後続のSakurai氏もNiizawa氏も素晴らしいスピードで登ってきて、取付からちょうど1時間で3人が抜けきりました。私が核心部にかかった頃に後続パーティーも第二岩峰の下に到着しはじめていましたが、どうやら迷惑をかけずにすんだようです。

後は延々と雪稜登りが続きます。シャリバテになってきたので雪壁トラバースの途中で小休止を交え、その後も重い足を引き上げ続けましたが、高度が上がるにつれて南には爺ヶ岳やそのずっと向こうに槍ヶ岳・穂高岳、北には五竜岳の眺めが大きくなってきました。

やっと北峰に到着してみると南峰はここからはるか彼方に見えており、こうなると冷池山荘で待っているであろうビールだけがモチベーションの源泉となってきます。相変わらず元気なNiizawa氏の後ろ姿をうらめしく眺めながら必死になって双耳峰の間を歩いていると、前方の南峰の上には人影が見え、八峰キレットから上がってくる登山者や南峰から北峰をピストンする登山者の姿もあって、急に賑やかになってきました。

40分かかってやっと南峰到着。今回の行程での最高地点であり、私にとっては3度目のピークです。ここでアイゼンとギアを外しほっと一息つきました。実は、冷池山荘は改築工事中で営業していないという情報があったのでもしかするとビールにありつけないのではないか、と一抹の危惧があったのですが、山頂の登山者に聞いてみると売店は営業しているとのこと。助かった!

南峰で「これで終わった」という気持ちになっているだけに、冷池山荘までの岩が露出した夏道の1時間は本当に長く感じました。ほうほうの態で到着した冷池山荘でただちに缶ビールを買い求め、プシュッ!プハ〜!とやってようやく幸福感が広がりました。この大休止を終えたら赤岩尾根分岐まで緩く登り返し、アイゼンをつけて赤岩尾根へのトラバース道に入り、その途中から振り返ると東尾根の全景が見渡せて、あそこを登ってきたんだなぁと感慨ひとしおです。

赤岩尾根を尾根通しに下るとちょっと大変ですが、先頭を行くNiizawa氏は尾根のかなり上部からただちに右手の西沢へ直下降するルートを選びました。30度程度の雪の斜面を駈け下って西沢に降り立つとそこからも20度強の雪の斜面ですが、雪が軟らかいのでヒールに力を入れて飛ぶように下ることができました。ところが、雪の急斜面の下降に慣れていない上に体力を消耗したSakurai氏が大幅に遅れてしまい、かなり下まで降りてしまっていたNiizawa氏と私は待てど暮らせど姿が見えてこないSakurai氏にだんだん不安になってきました。最初は「途中でウ●コでもしているんじゃないか」などと言っていたものの、風は上から吹き下ろしているので我々がどれだけ大声で呼び掛けても声は届いていないようです。そうこうしている間に西沢上部から小規模ながらブロック雪崩が落ちてきて左岸へ走って逃げることになり、してみるとあのスピードでは下降中にSakurai氏が雪崩に巻き込まれる確率が高く、このまま待っている我々も危ない、ということで登り返すことになりました。結局降りてきた距離の半分近くまで登り返したところで一歩一歩慎重に降りてきたSakurai氏と合流でき、ほとんど拉致するようにしてスピードアップしてもらって下ることができました。

大谷原到着は16時15分。ここでがっちり握手をかわし、帰路「ゆーぷる木崎湖」に立ち寄ってSakurai氏のおごりでいちご牛乳を飲んでから風呂でさっぱりし、生ビールで改めて乾杯。雪山としてはとても楽しく、しかし岩登りとしてはちょっと物足りなかった山行を締めくくりました。