塾長の山行記録
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塾長の山行記録

黒部川赤木沢

日程:2003/08/15-17

概要:初日は折立から太郎平小屋を経て薬師沢小屋泊。2日目に黒部川奥ノ廊下から赤木沢に入り稜線まで遡行。黒部五郎岳を往復して太郎平小屋泊。3日目に折立へ下山。

山頂:黒部五郎岳 2,840m

同行:T女史

山行寸描

▲赤木沢出合。上の画像をクリックすると、赤木沢の遡行の概要が見られます。(2003/08/16撮影)
▲ナメ滝。最高の天気とロケーションに笑いが止まらない。(2003/08/16撮影)
▲大滝。唐突に現れるこの岩壁は、北アルプスの厳しさを思い出させてくれる。(2003/08/16撮影)

赤木沢というステキな沢があるという話を初めて聞いたのは、たしか奥秩父・ヌク沢遡行の前夜、現場監督・さかぼう両氏と雨の東屋で飲んでいたときだったと記憶しています。しかし、その存在を強烈に意識づけられたのは言うまでもなく、現場監督氏の「業界騒然!赤木沢『両手に花』遡行」です。なにしろ現場監督氏はうら若き美女を2人も同伴して遡行。通りすがりの登山者に『うらやましいですなぁ。』とさんざん言われたり、手に手を取り合ってキャーキャー言いながら徒渉したりしたというのですから、このまま許すわけにはいきません。

ところで、以前キリマンジャロに登ったときにツアーでご一緒した関西在住のT女史とはその後もメールでの連絡が断続的に続いていたのですが、昨年末のメールのやりとりの中で「今度の夏に赤木沢に行きましょう」という話になり、「両手に花」にはかなわぬまでも一矢報いんものとひそかに企画を温めることとなりました。T女史は山歴こそまだ10年ですが、国内の主要バリエーションはもとよりマッターホルン、モン・ブランにも既に登り、さらに8月下旬にはまたしてもスイスに行ってアイガーに登るという行動派。技術・体力とも十分過ぎるほどです。

そんなわけで、8月14日の夜に私は「さわやか信州号」に乗りました。富山県の実家に戻っているT女史とは有峰口で落ち合い、そこから彼女の車で折立まで入る寸法です。天気予報はあまり芳しくなかったのですが、出発直前には遡行予定日の16日に晴れマークがつくようになっており、どうやら楽しい沢登りが期待できそうでした。

2003/08/15

△06:45 折立 → △08:10-20 三角点 → △10:05-30 太郎平小屋 → △12:10 薬師沢小屋

有峰口に5時半すぎに到着し、うまい具合にT女史とも合流することができて、久しぶりの再会を喜び合うのもそこそこに早速折立へ。林道のゲートは6時に開き、そこから30分ほどで折立に到着しました。登山口近くの駐車場には空きがあり、素早く身繕ろいをして登山口に向かいました。空はどんより曇っていますが雨は降っておらず、樹林帯の中の道を徐々に高度を上げてやがて開けた尾根筋に登る頃には下方に有峰湖を見下ろすこともできるようになりました。そして好ましい草原のところどころに咲くキスゲの黄色を楽しむうちに、意外に早く太郎平小屋に到着しました。

テント泊ならこの近くのテン場へ行くところですが、我々は今回は小屋泊まりということにしているのでそのまま薬師沢小屋を目指します。太郎平小屋を回りこんですぐに分岐する道を下り、やがて薬師沢沿いの道へ入ると小さな橋を渡ったり笹原や草原の中の木道を歩いたりとなかなかいい感じ。天気もどんどん良くなってきていて、すれ違う登山者から「いいタイミングで薬師沢小屋へ入りますねぇ」と天候の好転をうらやましがられ、そこからすぐに薬師沢小屋の赤い屋根を見下ろすことになりました。

薬師沢小屋は黒部川に薬師沢が流れ込む出合に建てられたこじんまりとした小屋で、受付をして外でしばらく寛いでから、おもむろに部屋にあがって軽く昼寝をしました。今日は混むかもしれないので一応2人で1畳ということにしておいてほしいと言われていましたが、夕食前には1人1畳使ってよいとのお達しも出て一安心。それにしてもこの小屋は、目の前の川にはイワナ釣りをしている登山者がいたり、表や裏手のテラスでゆったり飲んでいる客もいたりと、狭いながらもいろいろな楽しみのあるよい小屋でした。

2003/08/16

△05:40 薬師沢小屋 → △07:00-10 赤木沢出合 → △08:20-40 5m斜滝 → △10:15-40 中俣乗越 → △12:10-15 黒部五郎岳の肩 → △12:20-30 黒部五郎岳 → △12:40 黒部五郎岳の肩 → △14:20 赤木岳 → △14:45-15:00 北ノ俣岳 → △16:10 太郎平小屋

小屋で朝食をしっかりとって直ちに出発。小屋前の吊り橋の右手から奥ノ廊下に降り、左岸をどんどん進みました。河原で寛いでいた4人組を除くと我々の前にいるのは男女混成の6人パーティー1組だけだったようですが、そのパーティーも途中で抜かして先頭をきって奥へと進んで行きます。途中、冷たい水に腰までつかるへつりも交えながら左岸通しに遡行を続け、途中1カ所だけ中州経由で徒渉して右岸に渡りましたが、後は基本的に左岸を行き、さらにゴルジュ帯を岩魚止めノ滝を見下ろしながら高巻いて、かなり進んだと思ったあたりで河原に降りるとそこがプール状の赤木沢出合でした。しかしすぐにはそれと気付かず、へつりが難しそうだったので小さく高巻いてみると右手から沢が流れ込んでいたのでどうやらここが赤木沢らしいとわかったものの、奥ノ廊下方面へわずかに下って出合の地形を確認したり写真を撮ったりしてから高巻きを下り着いた地点に戻ってみると、ちょうど先ほどの6人パーティーも到着したところで、ここからはつかず離れずの距離で我々が先行することになりました。

よく晴れて明るい沢筋を遡行していくと、真っ青な空をバックにすぐ目の前に2段20mの滝が現れました。こんなに早くきれいな滝に出会うとは、と喜びながら左の壁から簡単によじ上って行くと、間髪を入れず次の大きな黄色っぽいナメ滝が現れてもう興奮状態。ナメ滝は水流の右側をフリクションで抜けることになるので浅いナメを左から右へ渡りますが、水はきらきらとあくまでも透明で、それが淵になったところでは周囲の緑を映しこんでとても綺麗。しかもナメ滝の上に出て5分も歩くと、もう次の4段の連滝が登場します。1段目の2mは左から登り、深い釜に勢いよく水を落としている2段目10mと3段目10mは右の草付を高巻きました。この高巻きは少々高度感があるもののまったく危険はなく、そのまま4段目8mも右から巻き上がりました。

この連滝を越えればさすがにおいしいところはもうしばらくないだろうと思っていましたが、ここからも次々に小さくかわいいナメ滝やゴルジュ状の地形が現れたりして、まったく息を継ぐ暇もないほどです。そして、これらの小滝の連続を越えて一段落したあたりで、彼方の上方に緑の稜線が見えてきました。

5m斜滝を越えたところで小休止。前方には4段15mの緩やかな滝が見えていて、その手前の横の斜面には黄色いキスゲが咲いていたりしていい雰囲気です。ここで軽くエネルギーを補給しているうちに6人パーティーが追いついてきて、ここから大滝までは彼らが先行することになりました。こちらは日なたぼっこをするようにゆっくり寛いでから、先行パーティーとの距離がある程度開いたところで再び遡行開始。4段の滝は、下部は水流の中を縫うように登り、上部は左側から抜けました。その先、左から支沢を合わせる明るいミニゴルジュを抜けて、その先の壁のような滝は先行パーティーが左からがしがし登っていたため、我々は遊び心を出して右から水流に近づいてみるとやはりこちらの方がすっきりとスマートに登ることができました。そしていよいよ前方に大岩壁が姿を現し、その右奥に30mの大滝が登場しました。

先行パーティーは大滝の下で小休止していましたが、どうやら大滝右のちょっとシビアなリッジを登ろうとしている様子です。我々はセオリー通りいったん大滝手前の5m滝の下まで戻り、そこから右手の小さく急なルンゼを詰め上がって、やがて大滝の落ち口と同じ高さになったあたりで左へ進む踏み跡に入ると、樹林の中をわずかに抜けてすぐに大滝の落ち口を見下ろす場所に出て、そこから岩の上のトラバースで大滝の上に出ることができました。ここで振り返ると6人パーティーはやはりリッジを登っているところで、そのうち3人程は早くも我々のすぐ後ろに抜けてきていましたが、リッジの途中でメンバーの1人が進退窮まってしまっており、ロープも結んでいないためにっちもさっちも行かない様子です。うーん気の毒に、大丈夫かなぁとは思いながらしばらく見ていましたが、6人もいるのだから何とかなるだろうと見切りをつけて先に進むことにしました。

ガイドブックには「大滝から二つ目の支沢」に入るように書かれていましたが、時刻も早いので黒部五郎岳へ足を伸ばすことに決めて支沢を見送り本流をどんどん進みました。実は大滝が終わってしまえばもう面白いところはないのだろうと思っていたのですが、実際にはここから稜線直下までも楽しみの連続でした。水がひたひたと流れるナメ、かわいい小滝、近づく稜線、そして背後にはどんどん大きくせり上がってくる薬師岳や赤牛岳の展望。もう言うことなしです。

上部の二俣は左へ進み、次の二俣は地形と方角を読んで右へ。さらにはっきり源流の様相を示した地形になって最後の二俣は左を選ぶと、目の前に雪渓が現れてようやく赤木沢は伏流となりました。スノーブリッジを慎重に避けて雪渓の上に抜け、やわらかい草原を踏んでゆっくり登ると目の前のハイマツ帯の中がもう縦走路で、予定通り中俣乗越に出ることができました。ちょうどヘルメットをザックにくくりつけたご夫婦らしい登山者が黒部五郎岳方面から歩いてきているところで、我々を見て話し掛けてきました。お二人は昨日赤木沢を遡行したのだそうですが、雨の中の遡行になり水量が多く苦労されたとのこと。今日はよかったでしょう?と言われて「もう最高でしたよ!」と答えましたが、実際これ以外に説明の言葉が見つからないほど条件に恵まれた遡行でした。

雲がかかり始めた縦走路の脇に腰を落ち着け、沢の装備を外して縦走スタイルに変身。黒部五郎岳への道はチングルマやハクサンイチゲ、ボウフウの仲間、トウヤクリンドウやウサギギクなどがところどころに姿を見せて美しかったのですが、軽量化のために行動食を切り詰めていた私はその意外な長さに若干シャリバテ気味。一方のT女史はまったくスピードが落ちることがなく、しかも黒部五郎岳の肩に着いて「腹へった〜」とへなへなと腰を下ろすとT女史の小さなザックからはおにぎりが2個も出てきて、まるでドラえもんのザックのようだと感心しました。

肩にザックをデポして登り着いた黒部五郎岳の山頂からは、ちょうど雲が切れてカールの向こうに水晶岳や雲ノ平、鷲羽岳がよく見えました。赤牛岳のさらに左奥には、どうやら後立山の山々も見えているようです。

素晴らしい展望をすっかり堪能してから肩に戻り、再びザックを背負って来た道を太郎平小屋を目指しました。

黒部五郎岳から太郎平小屋までの道もかなり長く、中俣乗越やその先の赤木岳手前で赤木沢を遡行してきたパーティーと出会いましたが、時刻から考えて彼らは太郎兵衛平のテン場を今朝出発し、薬師沢小屋経由で一気に遡行してきたのだろうと思われます。こちらは赤木岳から北ノ俣岳にかけてガスに巻かれて少々気が滅入る感じでもありましたが、太郎平小屋が見えてきたあたりからきれいなお花畑が広がり、その向こうに薬師岳の大きな山体がどーんと鎮座してなかなかの景観でした。やっと辿り着いた太郎平小屋で受付をすますと、外のベンチで缶ビールで乾杯!ドラえもんザックからはアラレや乾燥タン塩まで出てきて、こちらは目を白黒。Tさん、ごちそうさまでした。

太郎平小屋はやはり混んでいて、寝床に案内されたときは「2人1畳でお願いします」と言われましたが、夕食を終えて戻ってみるとどうやら隣は来ないようなので1人1畳使うことができました。我々の隣には金沢の山岳会に所属しているという女性2人がいて、彼女たちも今日赤木沢を遡行したのだそうですが、彼女たちの言によればこの日赤木沢には100人くらい入ったようです。誰がどうやってカウントしたのかは不明ですが、我々はおおむねその先頭を進んでいたわけで、おかげで自分達の赤木沢を堪能することができたことになります。今日一日の幸福な遡行に感慨ひとしおの私を脇において、ビールですっかりできあがっている様子の金沢の女性2人とT女史はいつの間にか意気投合し、白山の室○センターの接客の悪さに対する罵詈雑言で盛り上がっていました。

2003/08/17

△06:45 太郎平小屋 → △07:50 三角点 → △08:40 折立

この日は薬師岳を往復して下山する予定でしたが、夜半からの雨は朝になってもやまず、残念ながら薬師岳登頂は断念し、前夜受け取っていた弁当を朝食にしてからゆっくり7時前に出発しました。時折強まる風雨の中を、他の登山者をどんどん追い抜かして2時間かからずに折立に下山したら、T女史の車で有峰口近くにある国民宿舎白樺ロッジに直行し、立ち寄りでも10時から使える風呂でゆったり暖まり、衣類も全部着替えてさっぱりしました。その後、T女史に富山市まで送っていただき、とんかつを食べて駅前で別れて、越後湯沢経由で帰京しました。


7月のツェルマットではあいにくの気象条件に涙を飲みましたが、今回の赤木沢は晴れ女T女史の御利益のおかげで素晴らしい遡行となりました。ありがとうございました。またどこかの山や沢でご一緒下さい。

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