塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

中川川箱根屋沢

日程:2013/07/14

概要:西丹沢の箱根屋沢を箱根橋から遡行。核心部となるF8は人工登攀。遡行終了後、左岸の尾根を使って下山。

山頂:---

同行:現場監督氏

山行寸描

▲人工登攀の滝。上の画像をクリックすると、箱根屋沢の遡行の概要が見られます。(2013/07/14撮影)
▲続くこの滝でもアブミを使用。(2013/07/14撮影)

海の日の三連休は現場監督氏と共に北アルプスへ行く予定だったのですが、梅雨は明けているというのに予報は非情の雨模様。どうやら日本海に近いほど悪いらしいという情報に、直前の木曜日に行き先をセカンドプランの北岳に変更して、土曜日の早朝に現場監督氏の車で中央自動車道を走りました。ところが甲府昭和ICを下りてガソリンスタンドに入ったところで念のために天気予報を見てみたところ、目的地の翌日の予報は「曇か霧一時雨」となっています。仕方なくこの日はいったん帰宅し、日曜日ワンデイでサードプランの箱根屋沢を遡行することになりました。一応、最初のプランもセカンドプランもサードプランもアブミの使用が想定されるという点が共通項なのですが、最後のプランだけは山のスケールが大違いで少々がっくりです。

2013/07/14

△09:30 箱根橋 → △11:35-12:30 F8 → △13:45-14:05 左岸の尾根上 → △14:45 車道 → △14:55 箱根橋

小田急線新松田駅前で現場監督氏と合流し、そのままバスで西丹沢方面へ。中川を過ぎて自由乗降区間に入り二つ目の橋で下ろしてもらうと、そこ=箱根橋が入渓点です。近くではちょうど中川川で川遊びをしようとしている若者たちの一団が車からわいわいと荷物を下ろしているところで、その近くでヘルメット・ハーネスに身を固めギアをガチャガチャ鳴らして柔軟体操をしている我々の姿は彼らの目にはよほど奇異に映ったことでしょう。

橋の下は完全に伏流になっていますが、荒れた沢筋を上流にしばらく進むと水が現れて、小さなナメ滝の向こうに堰堤が見えてきました。最初の堰堤と次の堰堤は右からパイプ梯子で越え、三つ目の堰堤は埋もれてしまっているので真ん中を通り、ガレ沢を左に分けてようやくまっとうな沢らしくなってから少し進んだところで、F1(20m)が登場しました。

細いながらも一直線に水を落としているこの滝では途中に残置ピンも見えているのでロープを出し、ジャンケンの結果、現場監督氏がリードすることになりました。今年初めての沢登りでまだフェルトのフリクションの感覚が戻っていない現場監督氏は、慎重ながらも淀みない登りで滝の上へ抜けていきましたが、後続をビレイするための適当な支点が落ち口近くに見当たらないために少し進んだところの大岩にスリングを回してセルフビレイをとったようです。実はこのことは事前の検討であらかじめ予想してあり、したがってロープもいつもの30mではなく40mを持ってきていたのですが、これは正解でした。後続してみると水流の中は角度があってつるつる、側壁は適度のホールドがあるものの一部脆いところもあり、というわけで朝一番の滝としては一筋縄ではいかない感じ。現場監督氏が慎重だったのもうなずけます。

すぐに現れるF2(5m)は沢を横切る導水管を覆う堰堤状の岩積の上に5mほどの高さで立っており、ホールドは豊富ながら滑りやすいので慎重に越えました。少し歩いて黒々とした姿を見せるF3(8m)は水流の右側からアプローチして落ち口へ左上すれば、ほとんど濡れずに抜けることができます。これらの二つの滝はロープを使用しませんでした。

F4(12m)は正面の壁の左寄りに水を落としており、登路は右に広がる壁の真ん中をやや左上気味に登るラインですが、途中で1カ所ハング状になっているのがポイントです。今度は私がリードの番ですが、ハングまでは右から問題なく登り、ハング状の箇所は右足を決め右手横引きでぐっと伸び上がれば壁の中のしっかりしたホールドに手が届き、そこから先はほぼ階段状で容易。ムーブを探す楽しみとしっかりしたランニング支点を提供してくれる面白い滝でした。

F5(10m)では現場監督氏は左寄りからかぶり気味のラインを直登、私は右から凹角を登って落ち口へトラバース。この辺りのラインの選択は各人の趣味の領域ということで……。しかしこの沢は適度な難しさの滝が次々に現れて飽きさせないいい沢だと思うのですが、出だしからここまで随所に残置ロープが目立つのはなぜなんでしょうか?

F5から先は手元の遡行図(『丹沢の谷 110ルート』(山と溪谷社 1995年))には混乱があるようで現場の実感と一致しませんが、仮に人工登攀の滝を遡行図通りに「F8」とすれば、F7にあたる滝は少々痺れる滝でした。下部は滝身の滑りやすそうな黒い斜面、そこを登って白く乾いた左側面に出るとこちらは岩質が違うのかつるつるに磨かれて膨らんだ感じでとまどいます。リードの現場監督氏は、下からのアドバイスも受けながら残置ピン2カ所にランナーをとりつつ側面の上部に達し、残置されたオレンジの帯状のスリングに3本目のランナーをとって落ち口へのトラバースを試みましたが、樋状になった落ち口に右足を置いて右手を遠いガバへ手を伸ばす動きが悪いようです。このため彼にしては珍しくかなり逡巡していましたが、それでも最後は倒れ込むような態勢でガバをとり、そのまま上へ抜けていきました。後続の私もオレンジの帯までは達しましたが、その先の樋状に右足を置いて左手の甘カチで身体を支えながら右手を伸ばす手順ではガバに届かず、仕方なくそこから1段上の草付バンドに逃げて(←このラインは簡単)ここを解決しました。この辺りのラインの選択は各人の趣味の領域ということで……?

この滝のすぐ先に、いよいよ本日のメインイベントである人工登攀の滝=F8(15m)が現れました。ここは私のリードですが、細い滝の右壁の右下から落ち口へきれいに左上するクラックにハーケンがこれでもかというくらいベタ打ちしてあり、アブミの最下段から1段上がればもう次のピンに手が届いてしまいます。角度はやや寝ており巻込みの姿勢は不要、さらに残置ピンも比較的しっかりしており、手元のクイックドローの数を数えながら適度な間隔でランナーをとっていけば、スムーズに高度を稼ぐことができました。

最後は垂れ下がった木の枝をつかんで直上するか、滝の落ち口へ抜けるかを迷いましたが、残置ピンは後者を示しているので落ち口をチョイス。その最後のハーケンに掛けたアブミが回収しにくく、セカンドの現場監督氏に回収を依頼せざるを得なくなったのが唯一の心残りです。

ロープを結んだままずるずると進んでF9(10m)は現場監督氏のリード。あわよくばA0でと取り付いた現場監督氏でしたが、思った以上にホールドが細かく滑りやすく、最後はワンポイントA1で抜けていきました。後続の私はもちろん最初からアブミ全開です。

メインイベントが終われば後は稜線へ抜けるだけ……と思っていましたが、箱根屋沢はもう少しイベントを残してくれていました。F10(5m)は左から回り込もうとすると意外に悪く、正面から左寄りの凹角を上がって右へマントル。顕著な二俣を右へ進んで連続して出てくるスラブ状の滝も、最初のF11(7m)は難しくありませんが、次のF12(7m)は中段のテラス状から先にホールドがなくフリクション頼みで抜けるところがやや渋。私も現場監督氏も半分セミになりかけました。

スラブ滝を越えれば、今度こそ源頭部への一本道です。右壁が迫る狭い地形を抜けて小さいナメ床をひたひたと歩き、出てくる二俣は右へ右へと進めばやがて沢形は植林の斜面に消えて、蒸し暑さにめげながら植林地の崩れやすい斜面を登ること10分で箱根屋沢左岸の尾根上に到達しました。そこにははっきりした道があり、ここで遡行終了です。ここから少し登れば屏風岩山のピークに達することもできるのですが、樹林の間を透かして見たところ主稜線までは少しばかり距離がありそう。装備を解きながらヒグラシの寂しげな声を聞いているうちに「もういいか……」という気持になってしまいました。

尾根の下り道はかなりの急降下で、途中獣道っぽくなるところもありますが、尾根筋を忠実に下っていけばやがて明瞭な踏み跡に復帰し、わずか40分の下降で車道に出ることができました。川遊びの歓声も賑やかに聞こえるそこは起点となった箱根橋まで10分の場所で、この後、箱根橋から中川川に下りて沢靴を洗い、中川温泉「ぶなの湯」でさっぱりして、新松田駅前の居酒屋で打上げとしました。

冒頭に「がっくり」と書きましたが、終わってみればこの沢は小粒ながら気の利いた滝が次々に現れて飽きることがなく、なかなかに楽しい沢でした。お勧めです。