野呂川シレイ沢
日程:2008/07/12-13
概要:鳳凰三山の観音岳と薬師岳の間に詰め上げるシレイ沢へ、焚火を目的に単独行。下山は白鳳峠から広河原へ。
山頂:観音岳 2841m / 高嶺 2778m
同行:---
山行寸描
シレイ沢(白井沢)は南アルプス鳳凰三山の薬師岳と観音岳の間に西側から詰め上げる沢で、上の方は花崗岩のナメ滝や白ザレが美しいとガイドブックにも紹介されています。また、先達sudoさんの『やっぱり山が好き!』に載っているシレイ沢の記録を読んで、自分もいつかこの沢の途中にテントを張ってのんびり一夜を過ごしたいものだと思っていました。幸い、7月12-13日は梅雨明け前だというのに快晴の予報なので、急遽沢装備と泊まり道具をリュックサックに詰め込みました。さらに、sudoさんが泊まった場所は白砂が敷き詰められた絶好のテントサイトだそうなので、ここを勝手に「sudoポイント」と呼んで目的地とすることにしました。
2008/07/12
△11:15 白井橋 → △14:30 F16多段滝 → △15:50 F21白い滝 → △16:35 sudoポイント
朝7時新宿発のスーパーあずさで甲府に降り立ち、広河原行きのバスに乗る際に運転手さんに「白井橋で下ろしてください」と頼むと、運転手さんも心得たもので「シレイ沢ですね」との返事。バスは夜叉神峠を越え、ずいぶん広河原に近づいたところで停まって私を下ろしてくれました。
白井橋から見上げるシレイ沢は事前の情報の通りガレガレの様相であまり食指が動きませんが、とにかく沢登りスタイルに変身して沢に降りることにしました。橋の右岸に太いロープが垂れていましたが、その末端が下流側にずいぶん引っ張られていて下りにくそうだったので、左岸のガードレールを支点にして懸垂下降。ガレ場をどんどん登っていき、頭上に吊り橋を見るあたりで振り返ると、工事関係者の方々がこちらを見上げて何か話し合っています。もしや不審人物と思われているのか?しかしここまで来てしまったら引き返すこともできません。手を振って先を急ぐことにしました。
すぐに現れるのがチョックストンを持つ滝(F3)ですが、今回はあくまで「癒され」が目的なので、ちょっとでも難しそうな滝が出てきたらさっさと巻くと決めています。この滝も左(右岸)から簡単に巻いて、さらに水量豊富な滝を越えると、釜にきれいな白砂を敷き詰めた逆くの字滝(F6)が出てきました。これは右壁から簡単に登れる……はずでしたが、上部で傾斜が落ちるあたりはヌメヌメで滑りやすく、ホールドもなくてちょっと冷や汗をかきました。
その先に出てくる直瀑はF7で、高さがある上に上部がかぶっているので直登は無理。よって左の倒木が邪魔なルンゼを登りましたが、途中で右手の尾根からF7の上流を窺うと、その奥のF8も同様に高さをもっているのが見えたのでまとめて巻くことにしました。このとき、きっちりとルンゼを詰めきってしまえばよかったのですが、つい中途半端なところからトラバースにかかってしまったため、もろい急斜面に足を滑らせながらのスリリングな薮漕ぎに悩まされ時間を空費しました。なんとか上に抜けて上流を目指し、最後はスリング1本を残置して懸垂下降混じりでF8の上流に降り立ち、いくつか続く小滝の一つの近くで腰を落ち着けて、行動食をとりました。
行動再開。これも立派なF13の巻きは右(左岸)を上がりましたが、落ち口に向かうトラバースラインは途中で崩壊していて非常に微妙。んー、と考え込みながら辺りを見回すと、わずかに戻り気味に1段上がるランペがあり、そちらを経由すると土のバンドが滝の落ち口の上まで続いていました。
多段滝(F16)はもの凄い量の水をはるか上からどうどうと落としていて見応えがあり、この沢のハイライトの一つと言えそう。ガイドブックには15mと書いてありますが、見た感じそれではすみそうにない高距をもって水飛沫をあげています。これを右から明瞭な踏み跡に沿って巻き上がると、さらにいくつかの滝をそのまま右から巻くようになりました。そして地図にはない支沢を右に分けたあたりから、花崗岩のナメが続くようになってきます。
立体的な構造と高さを持つF20を左の急な草付から巻き上がると、いよいよ前方にまぶしいばかりに輝く白ザレの斜面が出てきて、その奥に滑らかに水を落とすF21=通称「白い滝」が現れました。水は花崗岩の壁に吸い付くように落ちており、足下には楕円形の釜がグリーンの水をたたえて穏やかに横たわっています。お日様も朝からずっと元気でいかにもあつらえ向きのプールですが、気分的に泳ぐ感じではなかったので写真を撮るだけとしました。
この「白い滝」は右の白ザレから登った記録もありますが、ワンポイントIV級があるなどそちらはあまりよいラインではないようです。そこで向かって左の草付〜樹林を登る踏み跡を辿ってみると、こちらの方はさしたる苦労もなく自然に「白い滝」の上流側に抜けることができました。さらにその先の小滝群をなるべく水線に近いところから登るようにしていると、顕著な二俣が現れました。ここはガイドブックに従って右俣に入ると、円形ホール状の岩壁に囲まれた空間に足を踏み入れることになり、その突き当たりにこれも立派な直瀑(F23)が落ちていました。見たところこの滝も直登は難しそうなので左から巻き上がり、「そろそろじゃないかな」と左岸の地形を注視しながら遡行すると、すぐにそれらしき空間が目について、足を運んでみればやはりそこがsudoポイントでした。
sudoポイントは記録の通り清潔な白砂がテント3張り分くらいの広さに敷き詰められた小広場で、上流側と下流側に大きな岩が風よけとなっており、もちろん水の確保にも困りません。さらにベンチになる倒木が真ん中に渡してあって、まさに絶好のテントサイトです。手早くテントを設営すると、何はなくとも焚火の準備。手近の樹林や沢のまわりに枯れ枝がいくらでも落ちており、効率よく薪を集めることができました。
多少暗くなるのを待って薪に火をつけ、オレンジの炎が上がるのを眺めながらラーメンを食し、スキットルのスピリッツをちびちび。この日、この沢にはどうやら自分1人しか入っていないようで、実にのんびりした気分でふと見上げると、ようやく暗くなった空に北斗七星がはっきりと見えます。そのまま火の勢いが落ち着くまで、ぼけっと山との一体感を味わいながら、単独行ならではの贅沢な時間を過ごしました。
2008/07/13
△05:35 sudoポイント → △07:50-08:05 稜線 → △08:25-40 観音岳 → △10:40-55 高嶺 → △11:30 白鳳峠 → △13:20 広河原
すっかり明るくなってから、のんびり出発。
崩壊地を抜け、水量が減ってきた沢筋をどんどん詰めると、左俣は涸れかけた二俣が出てきました。本流を追うなら右ですが、今回は訳あって観音岳に近い方に出たいので左を選択。すぐに水は涸れ、右に左に獣道を辿り時折薮漕ぎも交えながら高度を上げて、やっとの思いで白くザレたきれいな稜線に登り着きました。右手には薬師岳、左手にはすぐ近くに観音岳を望む場所で、登山者が行き交う道の脇で沢装備をしまいスニーカーに履き替えました。振り返ると真後ろに北岳が見えますが、まだかなりの雪を残していて、特にバットレス下部岩壁の取付あたりは遠目にもびっしり雪がついているのがわかります。
観音岳の頂上を踏むのはこれで3度目。私の初めての泊まりがけの山がこの鳳凰三山で、そのときに巨大な白峰三山の眺めに感動したことが、それまでのハイキング志向から本格的な登山へと転身させるきっかけとなった、とても思い出深い山です。シレイ沢を登った後はそのまま夜叉神峠方面へ下るケースが少なくないようですが、そのようなわけでどうしても鳳凰三山の最高峰である観音岳には登りたいと考えていました。
こうして久しぶりに観音岳の頂に立ってみると、その後たくさんの山の経験を積んだ今の目で見ても、やはりここからの展望は一級品です。甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳・白峰三山、さらに遠くには赤石岳。南アルプスの巨峰たちが再会を喜んでくれているようでした。
観音岳からの下山は、早川尾根に踏み込んで白鳳峠から広河原。荷の重さと暑さにちょっとばててしまい、赤抜沢ノ頭までの登り返しも時間がかかったのですが、さらに高嶺までも意外に時間がかかりました。
その先、どんどん下りて樹林帯の中にある白鳳峠で数名の男女パーティーと挨拶を交わすと、後は最初に岩礫帯、やがてシラビソ林の中をひたすら下降し、最後は車道をわずかに歩いて広河原に歩き着きました。
ところが、そこにあるはずのアルペンプラザが見当たりません。「?」と思いながらその先のバス停まで歩きましたが、後で調べたところでは、老朽化していたアルペンプラザは取り壊されて、その跡に2008年中にインフォメーション(ビジター)センターが建てられることになっているのだそう。いわば追憶の山行ではありましたが、かえって時の経過を実感することにもなりました。