塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

後山川三条沢

日程:2002/10/26-27

概要:雲取山の南、後山林道を途中から詰めて三条沢へ。稜線直下の登山道に出て、北天のタルから三条ノ湯に下り泊。翌朝下山。

山頂:---

同行:にょんまい夫妻 / えびさん / かっしい

山行寸描

▲三条大滝。まいまいさんが落ち方の手本を見せてくれた。(2002/10/26撮影)
▲立派な銚子の滝。左からかっしい、えびさん、にょんまいペア。(2002/10/26撮影)
▲2段の滝(上段4m)。水流の右寄りを簡単に登れる。(2002/10/26撮影)

にょんまいペア、えびさん、それに私の友人のかっしいと、奥秩父の三条沢で沢登り。主たる目的はえびさんの沢登り初挑戦で、当初はナメラ沢を検討していたのですが、日が短い季節であることを考えて、より早い時刻から行動を開始でき行程も短いと思われる三条沢に変更し、三条ノ湯での泊まりをはさんで青岩谷を組み合わせることとしました。三条沢は「奥秩父の沢の入門コース」とされていますから多少時間がかかってもゆとりをもって遡行できるでしょうし、にょんまいもかっしいも沢登りは一度ずつしか経験がないものの、にょんまいはアルパインの経験豊富でかっしいはフリークライミングでは私よりうまいから十分に私をサポートしてくれるだろう、というのが私のもくろみでした。このもくろみのうち前者はまったく甘かったことが後で判明し、逆に後者が期待以上であったおかげでなんとか無事に遡行をまっとうすることができたのはメンバーにいくら感謝しても感謝し足りないくらいです。

2002/10/26

△08:30 後山林道途中 → △09:00-15 三条沢出合 → △10:55 三条ノ湯の前 → △11:25-35 2段7m滝の上 → △12:35 狼谷出合 → △12:50-13:30 大ワサビ田 → △15:00-16:00頃 核心部の涸滝群 → △17:45-50 登山道 → △18:55 北天のタル → △21:05 三条ノ湯

青梅駅に7時前に集合、えびさんとは初対面です。挨拶もそこそこににょんまいカーで奥多摩を目指し、後山林道をがたがたと登りましたが、工事のため10月中は後山林道が途中までしか登れず塩沢橋の先1kmほどのところに駐車スペースがいくつかあることを三条ノ湯にあらかじめ聞いていたので、行けるところまで車を進めました。適当なところで車から荷物を下し、車をデポしててくてくと林道を緩やかに登ると30分もかからずに林道の終点で、そのすぐ先にある青岩谷と三条沢の出合で沢道具を身に着けました。

橋を渡って少し先から入渓すると、いくらも歩かないうちに目の前に立派な釜をもつ三条大滝が姿を現しました。落ち口では2条に分かれている水流が落ちる途中で合わさって音をたてて釜に注ぎ込んでおり、なかなかの迫力です。ここはまずにょんにょんさんがフリーソロで右からへつって無事に突破し、次にまいまいさんが後続しましたが、へつりの手前でずるっと滑って釜に落ちてしまいました。どうやら足が立たないらしく泳いで壁に戻りつきなんとか這い上がりましたが、そこから先は確保が欲しそうなので私・えびさん・かっしいの3人も滝のすぐ下まで近づいてアンザイレン。ロープの両端を私とかっしいに結び、中間にエイトノットを作って安全環付カラビナでえびさんのハーネスに付け、さらに無理だった場合の巻き道を指示してからおもむろにへつりにかかりました。

まいまいさんの待っているところまで登ってみると確かに目の前の奔流は強烈ですが、実はホールドは豊富でしっかりしているので、足を大胆に水流の際へさし出していけば案外無理なく抜けられます。そのまま上で肩がらみの態勢に入り、まずえびさん、次に中間のエイトノットを途中まで戻してまいまいさん、そして最後にかっしいを滝の上へ迎えました。ここで(失礼ながら)驚いたのがえびさんで、実を言えば「ホールドをちゃんと見つけてくれるかなぁ」と心配しながら登ってくるのを見ていたのですが、ほとんどためらうことなくぐんぐん登ってくれました。もちろん、まいまいさんもかっしいも問題なく抜けてきました。

しばらく穏やかな河原歩きが続き、権現谷、続いてカンバ谷を左に見送ると6mトイ状の銚子の滝ですが、これは直登できないので右から巻きました。どうやら小さく巻く道もあったようですが、我々は登山道まで上がり、ワサビ田の跡などを見下ろしながらそのまま三条ノ湯前の橋に辿り着いて橋の先から再び入渓しました。三条ノ湯から三条ダルミへの道が横断したすぐ先で2段7mの滝にぶつかり、下段3mをにょんまい・えびさんは右壁から越えましたが、ここは左側から回り込むように登った方が楽だったようです。続く上段の4mは、水流の右寄り階段状を簡単に登ることができました。

右から入る顕著な滝は桂沢で、さらにその先に1:1で狼谷を右へ分けました。この辺りは小さなナメや滝がところどころに現れて、楽しいところです(実はこの途中で出てきた2mほどの小滝で、最後を歩いていた私はつかんだホールドが崩れてバンザイ姿勢のまま背中から滝壷に落ちたのですが、幸い誰も見ていなかったのでこのまま内緒にしておきます)。

やがて大ワサビ田に到着し、ここから先は水流も少なくなるはずなのでにょんまいペアは沢タビを登山靴に履き替えました。石組みが立派な大ワサビ田は名前の通りずいぶん大きく、抜けるのにけっこう時間がかかりました。

その先の二俣は遡行図にしたがって右の伏流側をとり、そこからもできるだけ本流と思われる沢筋を選んで登って行ったつもりですが、1カ所右が正解か?と思えるところを、そちら側は大きな倒木が行く手をふさいでいたのでつい左に入ってしまいました。それでも方角的にはほぼ北をさしており、さらに正直に言うと、多少沢筋を間違えたところでここまでくればどれをとってもさしたる違いなく登山道へ出られるだろうという油断があったのですが、そんなに甘いものではなかったことはすぐに身をもって知ることになりました。

狭い沢筋の両側に笹が目立つようになってきましたが、高度計を見ると登山道までまだ400mくらいの高度差があります。通常なら1時間かかりませんが、現在のペースだとあと1時間半くらいかと見当をつけて高度を上げていくと、やがて斜度45度くらいの7-8mほどの涸滝に突き当たりました。にょんにょんさんは右から巻いて行きましたが、草付の足場がかなり悪く、むしろ上から確保して直登してもらった方が安全そうに思えたので、再びロープを取り出しフリーで登ってから、かっしい・えびさん・まいまいさんの順番で登ってもらいました。まいまいさんならにょんにょんさん同様にフリーで右から巻くこともできたでしょうが、ここはシステムを理解し最も信頼できるまいまいさんに最後尾からえびさんたちにアドバイスを飛ばしてもらいたかったので、あえてラストをお願いしたのでした。

この涸滝の上に出てみるとさらに上にもっと大きな滝が控えているのが見え、ここに来てガイドブックに紹介されたルートを外れていることがはっきりしてきました。とりあえずスタカットでもう1ピッチ比較的易しい登りを大きな涸滝の下まで登りましたが、そこから見上げた涸滝は最後の数mのチムニーが立って見えるもののホールドは見つけられそう。登山靴のにょんにょんさんは左から笹薮を漕いで登って行きましたが、こちらも滑りそうで腕力がないと困難と考え、先ほど同様まいまいさんにラストをお願いして涸滝に突っ込みました。しかし、下半分は滑りやすくはあるものの傾斜の緩い階段状で問題なかったのですが、途中から急に角度がきつくなってかぶり気味となり、外傾したフットホールドに立ち込みながらチムニーに入って1歩上がったところで行き詰まってしまいました。そこは落ち口まであと1mもないところで、右壁にホールドもあるにはあってムーブ的にはなんとかなりそうなのですが、途中にランナーもとっていない状態ではとてもそのホールドに運命を預ける気になれません。立ちこんでいる左足のふくらはぎが張ってくる感覚に「これは……自分史上最大ピンチかも」と思いつつ、心配したまいまいさんの「戻ってくることはできないんですか〜?」と気遣う声に対し努めて落ち着いた口調で「うーん、ちょっと難しいねぇ」と返事をし、ついで前方へ抜けていたにょんにょんさんに落ち口の近くまで降りてきてもらってお助けスリングを投げてもらって、そのまま上から引っ張ってもらったおかげで何とか這い上がれました(にょんにょんさん、ありがとう!)。まったくどうなることかと思いましたが、上から確保していれば落ち口直下の1mだけ解決すれば何とかなることがわかったので、後続の3人にも同じところを上がってもらうことにしました。最初のかっしいはここをノーテンで抜けましたが、続くえびさんは体格がいいだけにさすがにきつく、メインロープで私が確保し、さらににょんにょんさんにもう一度落ち口近くからスリングを投げてもらって2人がかりでマントルまで引きずり込まれそうな感覚を覚えながら引き上げました。ラストのまいまいさんもテンション混じりながら登りきり、その後さらに1ピッチ緩やかなトイ状を登って安定した場所に出て、都合4ピッチでやっとロープを解くことができました。

その後も崩れやすい急なルンゼが続き、時間はどんどんたっていきます。それでも薄暮の状態になった頃に、先を行くにょんにょんさんとかっしいが登山道に着いたことを知らせてくれてようやく安堵。時折上からにょんにょんさんがヘッドランプの明かりで残りの高度差を教えてくれるのを励みに、えびさんをフォローしながら滑る土の斜面をひたすら這い上がりました。

まいまいさんが登山道に到達したのを見計らって、にょんまいのお二人には三条ノ湯へ先行してもらうようお願いし、さらに頑張ること15分、えびさんと私もとうとう登山道の桟道の上に立つことができました。そこから20mほど西寄りの暗い中で待っていてくれたかっしいと合流したらヘッドランプを取り出し、とりあえずポットのコーヒーで身体を暖めてから、私・えびさん・かっしいの順でただちに北天のタルを目指して歩き出しました。ところがえびさんのヘッドランプが不調で、電池を換えても豆電球ほどにしか光ってくれません。そこでかっしいに貸していたペツルのティカをえびさんに着けてもらい、かっしいを真ん中にはさんで歩くことにしました。

北天のタルまでの道は長くて起伏もあり、しかもかすかに雨模様で真っ暗な中をヘッドランプの光だけを頼りに歩くためになかなかはかどりません。段差があるところや滑りやすそうなところでは2人を止めて私が先行してから振り返って後続の足下を照らすということを繰り返していたのですが、何でもなさそうなところで突然後ろから「あっ!」という声とザザッという笹の音が聞こえ、驚いて振り返るとかっしいの姿が消えています。慌てて下を覗いてみると、笹の急斜面を数m滑り落ちたところの木に引っ掛かってかっしいが止まっていました。「大丈夫かぁ?」と声を掛けると元気な返事が返ってきて一安心。かっしいにはそこから自力で笹をつかんでよじ登ってきてもらい、最後は腕をとって引っ張り上げましたが、幸いどこにも怪我がない様子です。本人はいたって冷静で「捨て身のギャグをかましてしまいました」と笑っていました。

長い長い時間の後に、ようやく北天のタルに到着。折り返して三条ノ湯へ下る道も長かったのですが、とにかく確実に安全地帯へ向かっていることが確認できたので気分的にはずいぶん楽でした。

三条ノ湯に到着したときには既に消灯時刻を過ぎていましたが、表には受付の明かりが漏れていました。その前でにょんまいの2人とともに心配しながら待ってくれていた小屋の人たちに歩み寄りまっ先に到着遅延のお詫びを申し上げると、とにかく無事でよかったと喜んでくれた上に、本来もう入ることができないはずの風呂を勧めてくれました。望外の親切に感謝しつつ荷物を置き、ヘッドランプの明かりを頼りに風呂に入って身体を暖めてから用意されていた部屋に入ると、にょんまいの2人はしっかり缶ビールを確保してくれていて、持ち寄ったおつまみとカップラーメンをアテに、とにかく無事に下り着けたことを祝って小声で乾杯しました。

2002/10/27

△07:30 三条ノ湯 → △07:55 林道終点 → △08:30 車デポ地点

明けて日曜日は快晴でした。本当はこの日は青岩谷へ転進してゆとりがあれば雲取山にも登る予定だったのですが、前日があれだけ盛り沢山ではもうお腹いっぱいだということで、ゆっくり朝食をとったら下山です。何の心配もいらない歩きやすい登山道を、昨日歩いた三条沢の下流部を見下ろしながら気分良く下りました。

沢筋の広葉樹林は瑞々しい緑で、紅葉どころか新緑のようですらありましたが、後山林道に出ると、うっすら黄色や赤に染まった木々が朝日に照らされた美しい景色を愛でることもできました。

今回の沢登りをえびさんたちは「面白かった」と言ってくれましたが、装備選定・時間管理・ルートファインディングのいずれにおいてもミスがあって同行者を無用の危険にさらしてしまったことは引率責任者としては大反省。にょんまい&かっしいの能力とえびさんのガッツに助けられて何とか生還できたというところです。そんなことをあれこれ考えながら下山したのですが、この好天の下をそのまま帰るのはもったいないので、にょんまいカーで奥多摩湖の南岸から御前山と三頭山の間を越えて数馬を抜け、山村の風情を楽しみながら秋川沿いに福生市に達して、にょんまいのご自宅近くにある「石川酒造」でちらりと資料館を見てからそこの中庭でイタリア料理とともに地ビール・日本酒をがんがん飲みました。昼前から飲みしゃべり始めて話題も酒も尽きることがなく、気が付けばあっという間に4時間が経過しており、最後はまいまいさんと私のアルコール一騎討ちの様相を呈していました。

すっかり満ち足りたところで、なんとにょんまい邸へご招待いただきコーヒーをご馳走になりました。そこには超美猫(!)のになとジルが待っていて、我々と思い切り遊んでくれたのでした。