雁ヶ腹摺三兄弟
Rec. 1005
日程:2026/05/11-12
概要:大月駅近郊の遅能戸を起点とし、金山鉱泉跡から山道に入る。初日は姥子山と雁ヶ腹摺山に登頂し、大峠に宿泊。翌日、小金沢連嶺に上がり、牛奥ノ雁ヶ腹摺山をピストンしてから南へ大蔵高丸、ハマイバ丸をつないで大谷ヶ丸から南西に向かい、笹子雁ヶ腹摺山に達して笹子駅へ下る。
◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
◎GPSログのダウンロードは「ヤマレコ」から(要ログイン)。
山頂:姥子山 1503m / 雁ヶ腹摺山 1874m / 牛奥ノ雁ヶ腹摺山 1990m / 黒岳 1988m / 大蔵高丸 1781m / ハマイバ丸 1752m / 大谷ヶ丸 1644m / 笹子雁ヶ腹摺山 1358m
同行:---
山行寸描
大菩薩嶺の南東の山域にある雁ヶ腹摺山の名ははるか昔から認識の中にありましたが、どういうわけかこれまで縁がなく、いつかはその山頂に立ってみたいと思っていました。そこで、同じ「雁ヶ腹摺」の名を冠する牛奥ノ雁ヶ腹摺山と笹子雁ヶ腹摺山とを組み合わせ、いわゆる「雁ヶ腹摺三兄弟」を巡る1泊2日の行程を組み立てました。この行程の中には少なからぬ「秀麗富嶽十二景」のピークが含まれているため、当然、富士山の秀麗な眺めを期待しての山行だったのですが……。
2026/05/11
△07:50 遅能戸 → △08:35-50 金山鉱泉跡 → △11:05 金山峠 → △12:50-55 姥子山(東峰) → △14:30-40 雁ヶ腹摺山 → △15:30 大峠
京王線とJRを乗り継いで大月に到着し、駅前から西奥山行きのバスに乗って終点の一つ手前の遅能戸おそのうとへ。停留所の表示は「遅能戸」ですが、バスの車内の案内は「遅能戸金山民宿入口」で、車内アナウンスが流れたときには思わず運転手さんに「『遅能戸』はここだけですか?」と確認してしまいました。


遅能戸からは林道金山線をてくてくと歩き、宿泊施設やら恩賜林の由来書きやらを眺めながら1時間弱、登山口となる金山鉱泉跡に到着しました。ここにはかつて山口館という温泉旅館があって2019年まで営業していたそうですが、この登山口の手前左側にあった更地がその跡だったようです。


土沢を渡る木橋は腐っていて使えませんが、川幅が狭いので上流側からでも下流側からでも簡単に渡れます。そこからしばらくの間は植林地の中の九十九折りの道を登りますが、尾根の上に出ると植生が変わって明るい道になり、こちらの気持ちも明るくなります。


金山鉱泉からの道(荒廃)が合流する金山峠から尾根の右側をほぼ水平に下っていったん車道に降りたところが百間干場という由来不明な地名の場所で、橋を渡ったすぐそこから右の尾根に取り付いて高度を上げていきます。ちなみにここで、反対方向から降りてくる単独の登山者とすれ違いましたが、彼はどこから入ってどこを歩いてきたのだろう?


登山道が車道に乗り上げたところで右へ車道を歩き、5分ほどの場所でガードレールの間から階段を降りて姥子山をピストンします。往復30分ほどなのでリュックサックは階段の横にデポしたのですが、このあたりにも熊の出没情報があるのが心配ではありました。
姥子山には西峰と東峰とがあり、眺めがいいのは東峰の方なのですが、その東峰が近づくにつれてイワカガミが目立つようになりました。最初は一株二株が登山道沿いにあって、その健気な姿を愛でながら写真を撮っていたのですが、気がつけばこれでもかと言うくらいにわさわさと咲き揃っていてびっくり。どうやら期せずして花のタイミングに恵まれたようです。

イワカガミの花には恵まれましたが、姥子山の上からの富士山の眺めには恵まれませんでした。ここは雁ヶ腹摺山と共に「秀麗富嶽十二景」の1番山頂とされていて、確かにここからの広闊な展望は見事でしたが、あいにくの雲が富士山に蓋をしてしまっています。

振り返ればそこには雁ヶ腹摺山。目下の雲の広がりようからすると、あそこからの眺めも期待できそうにはありませんが、今回は展望よりもピークハントが主眼です。そんなわけで、早々にデポしたリュックサックの元に戻りました。


階段から始まる坂道がいったん緩んだあたりは白樺平と名付けられており、そう言われてみると確かにカバの木とブナとが混在しています。さらに登るとツガの木が目立つようになりましたが、全体として明るい坂道をゆっくり登り続けると、やがて山頂近くの草原に登り着きました。


まだ黄色っぽい草原の中の道を進み、道標が立っているところでリュックサックを下ろすと、そのすぐ向こうが雁ヶ腹摺山の山頂です。

私の世代には懐かしい岩倉具視の五百円札に描かれた富士山は、写真家の名取久作が昭和17年11月3日にここで撮影した写真を原画としています。雁ヶ腹摺山という山の名前を自分が認識したのも、この紙幣に由来しているはずです。


雁ヶ腹摺山の山頂から今日の泊まり場となる大峠までは、歩きやすい下り道で1時間もかかりません。そしてその途中には「麗水 御硯水」なる水場があって、ちょろちょろと水を流していました。この水場は涸れることもあるという情報をあらかじめ得ていたため、リュックサックの中には茶・スポーツドリンク・水を各1リットルずつ積み込んであったので、ここでの水汲みは不要と言えば不要なのですが、せっかくの「麗水」なのでプラティパスに1リットルを詰めていくことにしました。その際にここで水を口に含んでみたところ、冷たさの中にかすかに甘みを感じるおいしい水でした。
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大峠に到着。事前の情報通り向こう側の斜面にはがっちりした作りの東屋があり、南へわずかに下ったところには驚くほどに清潔な水洗トイレも設置されていました。このトイレには私たちはNo.6を達成できるよう挑戦を続けます
と標語が掲げられていて、縁がない人には何のことやらという感じだと思いますが、もちろんこれはSDGsのGlobal Goal 6です。

東屋の中で一息ついて、ちょっとおトイレと降りてきた16時頃、ふと見ると富士山の山頂が雲の上に顔を覗かせています。今回の山行では富士山にはお目にかかれないだろうと諦めていただけに、これには感激しました。そして実際のところ、富士山の山頂部分をまともに見られたのはこのタイミングだけで、1時間後にはその姿は再び雲の中に隠れてしまいました。
屋外でツェルトを自立させられる装備も持参してはいますが、ここは東屋の屋根と壁と床をお借りすることにして、床にマットを敷きシュラフをのべ、その上にツェルトを広げました。


ところが、どうやらこの東屋の木組みの中には何らかの小動物が住み着いているらしく、そのさかんに動く音や鳴き声が気になって落ち着けません。そこで、景気のいい音楽で気を紛らわせようと聴いたのは川口千里さんの『Buena Vista』です。特にオープニングナンバーの「See You Much Later」は強烈な変拍子(テーマ部は7/8+7/8+3/8)が楽しく、この目的にはうってつけ。
……と思ったものの、考えてみれば彼らは先住民で、自分は間借り人。彼らの生活音に文句を言うことはできないなと思い直して鉾を収め、音量をぐっと落としてPat Methenyのオーガニックなサウンドで和解を求めてから、20時頃に就寝しました。
2026/05/12
△04:45 大峠 → △06:20-25 分岐 → △07:30-40 牛奥ノ雁ヶ腹摺山 → △08:50 黒岳 → △10:20-35 大蔵高丸 → △11:00 ハマイバ丸 → △12:15-30 大谷ヶ丸 → △14:55-15:00 お坊山 → △16:50 笹子雁ヶ腹摺山 → △18:25 笹子駅
昨夜はやはりそこそこ冷え込みましたが、一週間ほど前に韮崎の「NEXT MOUNTAIN」で買い求めたダウンパーカのおかげで寒い思いをせずにすみました。このダウンパーカの実戦試用もこのタイミングでこの山行を実行した動機の一つだったのですが、この新顔は十分な結果を出してくれました。

朝日に染まる富士山の姿を期待しましたが、やはり今回は富士山とは縁が薄かったようです。ここからの富士山ビューが目当てらしい車が2台上がってきていましたが、おそらく彼らも思うような眺めは得られなかったことでしょう。


すっかり明るくなってから出発し、大菩薩嶺の南に続く小金沢連嶺上のピークの一つである黒岳のわずかに北から東に伸びる尾根を登って縦走路に合流したら、そこにリュックサックをデポしてデイパックだけの身軽な姿になって北へ向かいます。すなわち、二つ目の「雁ヶ腹摺山」である牛奥ノ雁ヶ腹摺山へのピストンです。

上空には青い部分も見えているものの、縦走路上にはガスがかかっていてどことなく幽玄な雰囲気が漂いますが、かえっていい感じに趣があり、アップダウンが少ないこともあって足がはかどります。


牛奥ノ雁ヶ腹摺山の手前には「賽の河原」と呼ばれる笹に覆われた鞍部があり、そこから左を見るとうっすらと白峰三山の姿が見えました。こういう低いところを、渡り鳥たちは腹を摺りながら越えていくのだろうか?などと思いながら登り返せば、ほんのわずかで牛奥ノ雁ヶ腹摺山の山頂に到着します。

ひらがなにすると「うしおくのがんがはらすりやま」と14文字の牛奥ノ雁ヶ腹摺山は日本で最長の山名を持つ山として知られ、北隣の小金沢山と共に「秀麗富嶽十二景」の2番山頂でもありますが、南に向かって展望が開けた山頂の佇まいはそうした付加価値がなくても十分に魅力的。しかも、ここから北に向かって大菩薩峠までは登山地図のコースタイムで2時間ほどですし、西に下ればバス停まで1時間あまりと奥深い位置でありながらアクセスのいい場所にあって、これまで自分がこの山を登山の対象として認識してこなかったことが不思議になるくらいです。

ここから小金沢山を越えて石丸峠・大菩薩峠への縦走路も気になりますが、今はリュックサックが待つ黒岳へ戻らなければなりません。


元来た道を戻り、デポしてあったリュックサックを再び担いで南への縦走を続けます。まず達するのはすぐそこにある黒岳です。


続いて白谷ノ丸から岬のような白谷小丸を見下ろし、ぐっと下って湯の沢峠。この峠の右(西)にはすぐ近くに避難小屋と駐車場とがあり、車が数台駐まっているのも見えました。

湯の沢峠の南には「お花畑」があって、柵とロープとで厳重に守られていましたが、マツムシソウなどの夏の花の名所であるらしく、今の時期は小さな花々が時折見られる程度でした。

隣のハマイバ丸と共に「秀麗富嶽十二景」の3番山頂である大蔵高丸。開けすぎていて日差しを遮るものがなく、夏に来たら暑そうです。

隣の大蔵高丸と共に「秀麗富嶽十二景」の3番山頂であるハマイバ丸。山名標識には「破魔射場丸」とありました。


おそろしく滑りやすい土の道を下って、ついホールドを探したくなるボルダーの天下石。このあたりはこれといった見どころがあるわけではないのですが、地形や植生の変化のおかげで何となく楽しくなってくるところです。

米背負峠を越えて登り返した大谷ヶ丸は、今回のコースの中では例外的に過去に足跡を残したことがあるピークです。2019年の日川曲り沢の遡行では大谷ヶ丸の南で稜線に上り米背負峠から西に下りましたし、2022年の真木川大ゴ沢の遡行の際には大谷ヶ丸に詰め上げて東へ下りました。そして、小金沢連嶺はこの大谷ヶ丸からいったん東に折れた後に南進して滝子山を南端とするのですが、これから向かうのはこの縦走路を外れて南西方向です。


こちらは大谷ヶ丸から最低鞍部まで徐々に500m以上も標高を落とすため、草原がなくなる代わりに新緑の彩りが深くなり、そうした中に小さなピークやひっそりした峠を連ねています。

最低鞍部である大鹿峠から今度は300m登り返してお坊山の一角に出ると、背後に辿ってきた山々の姿を見ることができました。しかし、ずいぶん歩いてきたものだと感慨にふけっている暇はなく、このお坊山から最後のピークである笹子雁ヶ腹摺山まではまだ2時間近くの道のりが残されています。
しかし、この山頂周辺のミツバツツジは見事でした。ちょうど見頃を迎えているツツジが廊下を作る中を歩き、お坊山の標識に着いたときには身も心もピンク色に染まって……というのは話を盛り過ぎですが、姥子山のイワカガミとお坊山のミツバツツジとは今回の山行での大きな収穫になりました。

それにしても、お坊山から笹子雁ヶ腹摺山までは距離にすると大したことがないのになぜコースタイムが長いのか?という疑問は、すぐに解けました。この区間はとにかくアップダウンが多く、ところにより鎖場もあって、地形図から読み取れる以上のアルバイトを登山者に強いるからです。もう勘弁してくれ!と口に出してボヤきながら登り降りを続けること1時間あまり、ようやく前方に笹子雁ヶ腹摺山の山体が見えてきましたが、ここからあの山の足元までの間にも小ピークが一つ隠れていました。

ようやく三つ目の「雁ヶ腹摺山」である笹子雁ヶ腹摺山に到着しました。ここは滝子山と共に「秀麗富嶽十二景」の4番山頂とされていますが、それにしては展望に恵まれない静かな山頂でした。ここからさらなる充実を求めるなら縦走を継続して笹子峠を踏んでおきたいところですし、実は今回のコースからかなり離れたところに日影雁ヶ腹摺山という「四番目の雁ヶ腹摺山」もあるのですが、今日のところはもう十分。最短コースで下山します。
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笹子雁ヶ腹摺山から南東へ伸びる尾根は適度な斜度で効率よく高度を下げさせてくれて、山頂からちょうど1時間で下界に降り立つことができました。そこからゴールとなる笹子駅までは国道20号沿いに30分の歩きでしたが、道筋の左手には先ほどまでその上にいた笹子雁ヶ腹摺山やお坊山などが見えていました。
本稿の中でも触れたように、大菩薩峠から笹子へと南下する山並みの中では大谷ヶ丸と滝子山にはピンポイントでなじみがあったものの、大菩薩峠から大谷ヶ丸までの間および大谷ヶ丸から笹子雁ヶ腹摺山までの間の縦走路はいずれも未踏区間であったので、新鮮な気持ちで歩くことができました。特に牛奥ノ雁ヶ腹摺山から大谷ヶ丸にかけてはあちこちに草原や広葉樹林の広がりを見ることができ、とても気持ちの良いものでした。
あいにく今回は富士山の姿を見られる機会がほとんどありませんでしたが、それは再訪問の名目を与えられたのだと前向きにとらえて、いずれ紅葉の季節にでも小金沢連嶺を(今回は訪れなかった小金沢山も含めて)のんびり縦走してみたいものです。







