湯河原幕岩「悟空スラブ・エクステンション」
No. 993
山行寸描
◎本稿でのルート名とグレードの同定は『マルチピッチの旅 初中級向け岩稜&ルート案内』(山と溪谷社 2026年)の記述を参照しています。
この日はセキネくんに付き合ってもらってリハビリクライミング。この日程を決めたときには氷が残っているところでアイスクライミングをしようという話にしていたのですが、各地から氷仕舞の情報が流れてきたためにこの計画はなくなり、かと言って沢登りにするにはまだ早いということからこれも没。そこで最近上梓されたばかりのトポ集『マルチピッチの旅 初中級向け岩稜&ルート案内』(〔著〕松原尚之ガイド)の中から、アプローチ、難易度共に手頃な湯河原幕岩の「悟空スラブ・エクステンション」をセレクトしました。
このルートは、伝統的なマルチピッチルートである悟空スラブの上に岳樺クラブが開拓したルートを追加したもので、終了点からそのまま幕山の山頂に抜けられるところがいかにもアルパインぽい好ルートです。
2026/03/16
△08:30 幕山公園入口 → △09:05-20 悟空スラブ取付 → △10:15-20 悟空スラブ終了点 → △11:15-30 岳樺クラブルート終了点 → △11:50 幕山 → △12:40 幕山公園入口
湯河原駅前で久しぶりにセキネくんと合流し、彼の車で幕山公園へ。


今日は月曜日、しかも早朝、おまけにうっすら雨模様とあって人の姿はほとんどありませんでしたが、梅林の梅はところどころで花を咲かせていて、目の保養になってくれています。


桃源郷〜希望峰の前を通って山道に入り、サイレントヴァリーの上で右にそれるたところが悟空スラブ。ここは何度か通った道ですが、悟空スラブまで上がるのは2015年以来なのでかなり新鮮です。


相変わらず緩やかな出だしの1ピッチ目は私のリード。ところどころ歩きを交えながら、それでも途中に出てくるボルトには丁寧に挨拶して上がります。

2ピッチ目はセキネくん。すいすいと登って、突き当たりの岩壁まで。

3ピッチ目は私。エクステンションしない悟空スラブとしてはここが最終ピッチかつ核心部になりますが、それでもグレードは低く、もちろんこれまでも問題なくリードで登っているところです。ところが今回は、途中に出てくる傾斜が立った箇所でなぜか手が出せなくなってしまいました。細かいとは言えホールドは明瞭で、手順も明らかなのですが、気持ちが高度感に負けています。一手出しては戻りをしばらく繰り返した上で、こういうときに自分に無理強いをするのは事故の元と割り切り、そこを右から巻いて終了点まで上がりました。

セキネくんを迎えて、ここからが岳樺クラブルート=エクステンションのパートです。目の前にはトポの記述通り苔だらけの壁と、その右にフィックスロープが垂れているルンゼがあって、登路としては右から行く方が自然なのですが、リードのセキネくんは「ルートに敬意を表して」と正面突破していきました。ただし、ホールドが細かい上に苔に覆われていて見た目以上に悪く、彼にしてはかなり慎重になりながら越えていって、下山後に聞いたところでは「(この後に出てくる)クラックより怖かった」ということでした。たぶん、きれいにクリーニングされて岩の形状がはっきり見えていればそこまで難しくはなかったと思うのですが、それはたらればの話。少なくとも今日のコンディションでは、特にリードにとっては容易ではなく、ビレイしながら「ワイヤーブラシを持ってくればよかったね」と冗談混じりに声を掛けたほどでした。


苔のフェースを越えるとすぐに右のルンゼからの道と合流し、そこから踏み跡を辿って少し登ると右前方に顕著な岩が見えてきます。これがグレードの上では核心部となるクラック(5.8〜5.9)です。

ここもセキネくんのリードですが、クラックの下奥に右手を入れてアンダーで持ち、身体を引き上げて左上のホールドを取って右足を右壁の張り出しに乗せて立ち上がってから、さらにダイナミックなムーブを駆使して先ほどの苔フェースよりも短時間で抜けていってしまいました(クラックの中にあるチョックストーンは動くので使用不可)。ややあってコールがかかり後続した私は、まずはセキネくんと同じムーブを試したもののリーチ差のせいか左上のホールドに手が届かず、ではレイバックではどうかと態勢を変えてみたもののこれもうまくいきません。今日はとにかくこのルートを抜けることだけを考えようとここでも割り切って、クラックの横に打たれているボルトをありがたく使わせてもらってA0にしました。


短いスラブを登った先の突き当たりの岩でセキネくんに迎えてもらって、そこから私が先行してこの壁の前を窮屈な思いをしながら左に渡り、ロープが屈曲するので短くピッチを切って、最後に右上→左上の歩きで小さな平坦地に出て終了です。ここでロープを解き、小休止の後に幕山の山頂に向かいました。


薄い踏み跡とピンクテープに導かれる斜面は急で、土が柔らかいためにそこそこの労力を要します。それでも幸い、トポが注意喚起していたトゲのある木には遭遇せず、しばしの頑張りで登山道に出ることができました。

小広く草が覆って気持ちいい幕山の山頂は、セキネくんにとっては結婚前の奥様とのロマンスの地であるそうですが、私はこれが初めてです。先客は2組で、いずれものんびりランチ休憩という雰囲気でした。確かにここは(大きな桜の木が花を咲かせればなおさら)お弁当を持ってきて仲間たちと歓談するのにちょうど良さそうです。


我々は終了点で行動食もとってしまっているので、真鶴半島を見下ろしてからよく整備された山道を下りました。

駐車場から少し下がったところから幕山を見上げると、その山頂の左下に悟空スラブが見えています。最後に積極的にロープを使うクライミングを行ったのは昨年9月の小川山のマルチピッチでしたから半年ぶりではあるのですが、それにしても今回の登れなさは尋常ではありません。これは遠からぬうちに、悟空スラブの部分だけでも登り直しておかなくては。いや、その前に広沢寺弁天岩からやり直しか?しかしあそこはヒルが出るからなあ……。
といった具合に些か肩を落としながらの下山だったのですが、それでも、ようやく岩場に戻ることができたこの半日のクライミングはリハビリの第一歩としてやはり有意義でした。セキネくん、ありがとう。
自分がとことん登れなかったことは横に置いて、今回初めて登ったエクステンション部分を振り返ると、出だしの苔フェースの悪さはセキネくんが証言している通りですし、その次のクラックもジャミングが効かないサイズである上にしっかり立った壁で、いずれも一筋縄では行きませんでした。トポの表記は、苔フェースのピッチが「5.5 or 4th」、クラックのピッチが「5.8〜5.9」ですが、これだけを見て甘い気持ちで取り付くと、痛い目に合うことは必定と思います。


さて、早い時刻に下山できたので「昼食でも」と市街地に車で降りたのですが、Googleで探した店はどこも行列ができていたり駐車場がなかったりでランチ難民状態。かろうじて見つけた「うおたつ」で豪華な「うおたつ丼膳」をいただいて、味とボリュームに見合う財布の軽量化を果たしてから、それぞれの帰路につきました。