笛吹川久渡沢ナメラ沢
日程:2025/10/18-19
概要:奥秩父の癒し渓・ナメラ沢を遡行し、早々に沢中泊。翌日遡行を継続し、二俣の近くから右岸の青笹尾根にエスケープして下山。
◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:---
同行:エリー
山行寸描
◎本稿での地名の同定は、主に『東京起点 沢登りルート120』(山と溪谷社 2010年)の記述を参照しています。なお、同書の後継書である『新版 東京起点 沢登りルート100』(2020年)にはこの沢のトポは掲載されていません。
2025年最後の沢登りは〈末娘〉エリーに付き合ってもらって、当初は日光方面の沢に行く予定でしたが、天気とエリーの都合との兼ね合いからプランを変更して奥秩父のナメラ沢に向かうことになりました。ナメラ沢にはこれまで2004年5月と2023年8月に訪れており今回が3回目ということになりますが、秋に遡行するのは初めてなので、ナメラ沢の違った表情を見ることができるかもしれないという期待を持って当日を迎えました。
2025/10/18
△11:40 道の駅みとみ → △12:50-13:20 沓切沢橋 → △14:10 幕営地
起点となる西沢渓谷入口に塩山駅から向かうバスは午前中に2便があるものの、沢の中で泊まろうとするとこれでは早すぎるということは前回の遡行で経験済み。そこで今回は山梨市駅から西沢渓谷入口に向かうバスを使うことにしました。山梨市駅で落ち合ったエリーとは3月の丹沢ミツマタヒルズ以来で、彼女はこの半年の間ほとんど登山はせずに釣りの腕を上げることに専念していたということですが、それでもそのリュックサックはぱんぱんに詰めた食材のせいでずっしり重くなっていました。
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まずは「道の駅みとみ」に立ち寄ってワインと調味料を調達してから、雁坂峠に通じる道を歩き始めます。初めのうちはやや雲がちではあるものの青空も見えて登山日和かと思えたのですが、歩いているうちにどんどん雲が下がってきてあたりが暗くなり、我々の心も暗くなってしまいました。それでも計画通り沓切沢橋を渡ったところで沢装備を身に着け、さらにしばらく進んだところから浅い土のルンゼを峠沢に下り、少し下流に進んでからナメラ沢に入りました。

歩き出すとすぐにちょっとしたナメが現れるのですが、ここで早くもナメラ沢の「秋の表情」を思い知ることになりました。とにかくヌメリが強い!つるつる滑る!エリーはフェルトソールなのでまだしもですが、私は何を考えたかラバーソールを履いているために一歩一歩が怖くてしかたありません。

腰が引けた姿のまま遡行していくとすぐにぶつかるのがこの沢では唯一登攀的な風貌を持つ5m滝です。前回は同行していたノリコさんが中央突破、私は右(左岸)からの壁越えでこの滝をクリアしたのですが、今回は水をかぶるのは論外ですし、エリーも私もリュックサックが重いので、左(右岸)からの巻きを選択しました。そのラインは一目瞭然で、右岸の斜面についている踏み跡を使い滝に向かって高さを上げてから、左側壁を簡単に越えて上流へ向かうというもの。フィックスロープも設置されていましたが、登りであればその必要性は感じませんでした。
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5m滝を越えるとすぐの左岸に、かっこうの幕営適地が現れました。遡行を開始してからまだ1時間もたっていませんが、空模様はいつ雨が降り出してもおかしくない暗さなので今日はここを野営地にすることとし、手早くテントを張ってから薪集めに精を出しました。そして十分に薪が集まったところで、ミニトマトと生ハムとチーズをアテにしてまずは乾杯!ついでエリーが作ってくれたのは我々の共通の友人であるジュンコさんから伝授されたという麻婆春雨トマト味、私が作ったのは毎度のベーコン野菜炒めで調味料は「道の駅みとみ」でゲットしたほうとう味噌。他にも後で写真を見るとデザートやらフルーツやらが登場しているはずなのに、サワー→ワイン→日本酒と飲み進めているうちにへべれけになった私は途中から何を食したのかの記憶が曖昧です。結局、15時頃から焚火を始めてお開きにしたのは21時すぎと6時間以上も食べ飲み語り続けていたのですが、幸いなことにこの間、懸念していた雨が降ることはありませんでした。
2025/10/19
△06:35 幕営地 → △08:25 二俣 → △09:00-10 青笹尾根 → △11:05 西沢渓谷入口
午前4時に起床してテントの外に出てみると、空には星が光っています。昨日集めてあった薪の残りを組み直して再び火を熾し、目覚めのコーヒーの後に各自持参の朝食をとって、仕上げに小さいオレンジをシェアしたら片付けに取り掛かります。

中ノ沢を右に分けて進むと小ぶりながら形のよいナメ小滝が現れて、その向こうに大きなナメ滝が姿を現しました。あれがナメラ沢で最大の10mナメ滝です。

しかし、見ればまっ茶色なヌメリ成分(水苔)にコーティングされていて取り付く島もない感じ。よって前回同様に右から巻き上がりましたが、これとてもスリップに注意しながらの慎重な登りになりました。
10m滝の後には沢の両側のあちこちに幕営適地が現れ、さらに断続的にナメが連なるようになって、歩き方の勘どころをつかんだらしいエリーは積極的にナメの上に足を運んでフェルトソールのフリクションを誇示していましたが、私の方は撮影班に徹することにして、ナメに踏み入ることは極力避け続けました。

しかし、さしものエリーもこのヌメヌメ一枚岩にはお手上げで、途中から右岸へ避難してきましたが、方向転換の途中でも何度も足をすくわれそうになって心拍数を上げていました。もしこの茶色の水苔が一掃されることがあればここは気持ちよく駆け上がることもできる程度の傾斜にすぎませんし、実際2004年にこの沢を遡行したときは終始ナメのど真ん中を不安なく歩くことができたのですが、このヌメリが季節のせいなのか、この20年間の変化によるものなのか(つまり今では常に水苔が貼り付いているのか)は不明です。

ナメ地帯が終わり、二俣が現れたらゴールは間近です。階段状で傾斜が緩やかなボコボコ滝に先に取り付いたエリーはオブザベーションを誤って行き詰まりかけましたが、より登りやすい水流の右側に方向転換して無事突破。


ボコボコ滝の上に左から合わさる枝沢を詰めていけば笹原の中に水平に走る踏み跡に自然に達することができて、ここでヘルメット以外のギアをすべてリュックサックにしまいました。

ギアをしまってから等高線に沿って南西方向へと進んでいくと、途中で紅葉が美しい場所に遭遇しました。まだ色づき始めたばかりという様子ではあるものの、赤黄緑のグラデーションが優しい色合いで広がり、時間にゆとりがあればいったんリュックサックを置いて笹原の中を散策したくなるほどムードのある場所でした。


青笹尾根に合流したらあとは主脈線を辿って下山するだけ。気持ちの良いこの尾根上は、2023年に歩いたときには目障りなほどにたくさんのピンクテープが貼られていましたが、今回歩いてみたら必要最小限の貼り方に変わっていてうれしい驚きを覚えました。そして途中からはひたすら防火帯の中を歩き続けて、ほぼ計画通りの時刻に西沢渓谷入口に下山することができました。
西沢渓谷入口の茶店でよもぎ餅をいただきながらの15分ほどのバス待ちの後、まず乗ったのは山梨市営バス(山梨厚生病院行)です。

十分な湯温のある内湯とゆったりつかれる露天の組合せが好ましい「みとみ笛吹の湯」でのんびり1時間ほどをすごし、上から下まで服を着替えてさっぱりしたら、今度は山梨交通のバスで塩山駅へGO。腹ぺこエリーの夕方からの用事には十分間に合う時間的ゆとりがあったので、塩山駅前の「夢乃家」に入って濁り酒(どぶろく)と共に定番のほうとうをいただきました。こちらのお店には初めて入りましたが、すこぶる美味、そしてボリューミー。営業時間が19時までというのがちょっとアレですが、もし塩山に明るいうちに到着するような山行の機会があれば、二度三度と訪れたいところです。

ところで、2023年にナメラ沢を遡行したときのレポートでは、この沢のことをたまにナメもある沢=タメラ沢ではないか?
とディスってしまったのですが、今回歩いてみたところ若干印象が違いました。これはおそらく季節が進んで木々の葉が落ちナメがはっきりと認識できるようになったためだろうと思うのですが、ともあれここに謹んでタメラ沢
の評価は取り下げたいと思います。ただ、それにしてもナメの上を歩くことを拒むような茶色い水苔のヌメリには閉口しました。ラバーソールを履いてきた自分も悪いとはいえ、これでは「ナメラ沢」ではなく「終始ヌメっている沢」=「ヌメラ沢」ではないか?と再びディスってしまいそうになりながら遡行を続けたのですが、それでも終わってみれば焚火、ナメ、紅葉、それに下山後の温泉と食事とをいずれもこじんまりと楽しんで、よいわらじ納めになりました。







