金北山

日程:2025/05/18

概要:ドンデン高原ロッジから朝一番で尻立山に登り、その後に金北山縦走路を縦走して大佐渡山地最高峰の金北山に達してから白雲台へ下る。

◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:尻立山 940m / 金北山 1172m

同行:いず女史 / トモエさん

山行寸描

▲縦走中に見た花々。種類が多すぎて一つ一つ名前を挙げることができない[1]。(2025/05/18撮影)

金北山を盟主とする大佐渡山地は2022年に歩いていますが、そのときにここは残雪が消えようとする時期の高山植物がすばらしいという話を聞き、いずれ季節を変えて再訪してみたいと思っていました。そして昨年11月の外秩父での山歩きの後に仲間たちと打上げをする中で佐渡の話が話題にのぼり、そこから半年後のタイミングで佐渡再訪問を果たすことになりました。同行者は外秩父での同行者の一人いず女史と、そのラン友達で佐渡出身のトモエさんです。

前回は行きがジェットフォイルで帰りがフェリーでしたが今回は逆パターン、しかし初日の泊まり場は前回と同じくドンデン高原ロッジのプラネタリウム室です。ビュッフェスタイル(メインディッシュはカレー)の夕食にお酒もつけて翌日の縦走の成功を祈念して乾杯[2]しましたが、気になるのは我々が宿に到着した後から本格化してきた風のこと。翌朝の御来光を期待して早々に就寝したものの、ちょうど三つ玉の低気圧が日本海上を駆け抜けていくタイミングだったので暴風が断続的に吹き付けていたために、落ち着かない夜になってしまいました。

2025/05/18

△03:55 ドンデン高原ロッジ → △04:10-35 尻立山 → △04:50-08:10 ドンデン高原ロッジ → △09:15 アオネバ十字路 → △10:05-20 マトネ → △11:45-12:10 イモリ平 → △13:35-45 あやめ池 → △14:20-30 金北山 → △15:40 白雲台

尻立山山頂から見る日の出を期待して4時少し前にロッジを出ましたが、樹林帯を抜けて草原地帯に入ると強風に煽られて怖いくらい。どうにかこうにか山頂に着いたもののじっと立っていることは難しく、山頂標識につかまったりベンチに座ったりしながら4時半の日の出を待ちました。

この時期のお日様は東北東の方角から昇るので日本海の彼方にそびえている鳥海山のシルエットの右側から上がるはずですが、あいにくそのあたりは雲に覆われていたため御来光を仰ぐことはできませんでした。それでもそちらの空がオレンジや黄色のグラデーションに染まるさまは美しく、早起きをしてここまで登ってきた価値は十分にあったと言えそうです。

ドンデン高原ロッジに戻るとすでに黄色味を帯びた太陽が雲の上に浮かんでおり、その光を受けて海面や両津市街の建物が輝いているさまも見応えがありました。しかしボリュームのありそうな雲が強風の中をものすごい勢いで右から左へと流れており、こうした眺めは長続きしそうにありません。我々はいったんロッジ内に戻り、朝食をとってからプラネタリウム室に戻って風が収まるのを待ったのですが、それにしても気になるのはこの日開催されている「佐渡ロングライド210」のことです。佐渡島の外周をぐるっと一周210km走破するこのサイクルイベントに参加するサイクリストの姿は昨日のフェリーでも少なからず見かけたのですが、出発時刻=5時半の時点では一向に風が収まる様子がなく、これで走れるのかな?と下界を見下ろしながらやきもきしてしまいました。

……などと他人のことを気にしている場合ではありません。低気圧が遠ざかるにつれて等圧線の間隔が広がっていくはずだと考えた我々は8時出発を申し合わせていたのですが、その時刻になっても風は収まらないばかりか周囲はガスに覆われて、かえって日の出の頃より悪条件になっています。それでも最初のうちは車道だし、縦走路に入ってもしばらくは樹林帯の中なので、とにかくマトネまで行ってそこでの状況次第で縦走を継続するか往路を引き返すかを判断することにしようと覚悟を決めて出発しました。

我々のほぼ2週間前に同じコースを歩いた山友トモミさんのレポートによれば、そのときのドンデン高原ロッジから金北山縦走路入口までの間の林道はほとんど雪に覆われていましたが、さすがにもう雪は溶けていて、すっかり薹が立ってしまったフキノトウたちと共に早くもスミレやカタクリ、シラネアオイ、ニリンソウ、アズマイチゲなどをまとまった形で見ることができ、さらに縦走路入口からアオネバ十字路までの間ではヒトリシズカやエンレイソウも目について、三人とものっけからテンションMAXになりました。また、使い古した歯ブラシ(←失礼)のような黄色い穂をつけた謎の植物もいやというほど繁茂していて「これはなんだ?」と不思議だったのですが、どうやらそれはカンスゲだったようです。

アオネバ十字路を過ぎるとイワカガミが目立つようになり、他の花々も密度が濃くなって、中には上の写真のニリンソウのように登山道の脇を同種の花が埋め尽くす場所も散見されるようになってきました。

そうした中で今回の山行のハイライトとなったのは、このサンカヨウです。サンカヨウの花びらは乾いているときは白いのですが、低温高湿状態が続くと透明になることが知られていて、そのために「スケルトンフラワー」という別名を与えられています。我々が見たサンカヨウは完全な透明ではなく半透明の状態でしたが、それでもその佇まいは神秘的で、いず女史もトモエさんも大喜び。盛んに構図を変えながら写真を撮る二人の後ろ姿を眺めながら、私はといえば不謹慎なことにフグ刺し(てっさ)を連想していました。

そうこうするうちにこの日の行動の判断ポイントとなるマトネ(笠峰)に到着しました。稜線上は雲の中に入っているらしく、相変わらず風が強くガスも濃いのものの、この程度なら歩行に支障はなさそう。アミノバイタルで気合いを入れ直してから、縦走を続行することにしました。

マトネの先ではさらに花の種類が増えて、エチゴキジムシロやニシキゴロモらしき花が現れました。また登山道上に現れた緑色凝灰岩(グリーンタフ)も不思議な色合いですが、これはアオネバ(青粘)の語源で、堆積した火山砕屑物が熱水による変質作用を受けて「緑泥石」という緑色の粘土鉱物を生じたものです。

この縦走路は花の種類の多さもさることながら、特定の花の群生が随所に見られる点も魅力です。この区間では「カタクリ街道」(いず女史命名)が出現して、私がこれまでの生涯で見てきたカタクリの数を優に上回るほどでした。しかもこの縦走路のカタクリは咲き始めだからか花弁の開き方がそり返った形になっていないものが多く、葉に斑が入っていないのも特徴的です。

真砂の峰あたりは砂礫帯になっていて、晴れていればすばらしい展望を得られるところなのですが、今はホワイトバックの前でなかば耐風姿勢のようなポーズをとることしかできません。そんな我々を迎えてくれた標石は、篆書体も厳かな明治時代の宮内省御料局のもの。御料局ということは(丹沢に「御料林」があったのと同じように)この地が皇室に属する御料地であったことを示しています。

「街道をゆく」シリーズのクライマックスは、シラネアオイ街道です。これまた私がこれまでの生涯で見てきたシラネアオイの数を100倍したほどの大盤振る舞いで、これだけあれば普通はだんだん見飽きてくるはずですが、この華やかさと清楚さとを兼ね備えた稀有な花に限ってはそうしたことがなく、この山行の始めから終わりまでをシラネアオイがずっと見守ってくれていたことを嬉しく思いました。

天狗の休場を通過する頃になって、雲が上がり下界が見下ろせるようになりました。そこに見えていたのは背後に加茂湖を控えさせた両津港で、稜線上から海が見えることで自分たちが島にいるのだということをあらためて実感しました。

やがて道が二手に分かれるポイントに到達しました。前回歩いた左の道は山腹をトラバースして役行者の石像から鏡池を通りますが、試みに左の道を覗いてみると斜面にびっしり雪がついていてこれを横断するのは難儀なことになりそう。そこで今回は素直に尾根上を行く直進ルートをとったところ、その途上にこの日唯一のタラノキが見つかりました。そこについているタラの芽もいささか伸びすぎのようではありましたが、そもそも外来の登山者である我々が山の幸を勝手に採るのはいかがなものかという気持ちが働き、これに手を出すことは控えました。

やがて二つのコースが合流した先にあやめ池が現れて、周囲の登山道も雪解け水で水浸しでした。そしてここから前方の金北山を見上げると、雪に覆われた急な斜面を先行する登山者が登っているのが見えました。

ここまで縦走路上に難所らしいところは皆無でしたが、この雪に覆われた斜面に限っては歯応えが感じられます。まずはところどころに付けられたピンクテープを目印に斜面を進みましたが、ところによっては登山道に中途半端に雪が残っているためにそれを迂回しなければならず、木の枝や幹をつかんで身体を引き上げるために腕力を使う場面がありました。

そして斜面の最後の30mほど(?)がなかなかの急斜面になっていますが、ありがたいことにそこにはしっかりしたステップが切られており、フィックスロープも設置されています。とは言うものの万一スリップすれば斜面の途中ではとても止まりそうになく、ここは一人ずつロープにすがって慎重に越えていきました。

フィックスロープの斜面を越えるとしばらく水平な道(と言っても相当部分が雪の下)を進み、最後に再び雪の斜面を登れば待望の金北山山頂です。幸いにもこの頃になると雲がとれて国中平野とその向こうの小佐渡山地を眺められるようになり、おかげで縦走の完遂・花々の鑑賞・山頂からの展望の三拍子が揃った山行とすることができました。

ここから先は整備された道を1時間ほど歩くだけで、もはや苦労も危険もありません。金北山大権現に無事山行終了の御礼の気持ちをこめて御賽銭を納めてから、白雲台を目指して下山にかかりました。

脚注

  1. ^花の名前は(おそらく)次のとおり。スミレ / ニリンソウ / カタクリ / アズマイチゲ / オトメエンゴサク / ユキワリソウ / シラネアオイ / ? / ヒトリシズカ / カンスゲ / ? / イワカガミ / ? / チゴユリ / エンレイソウ / ユキワリソウ / サンカヨウ / ニシキゴロモ / ショウジョウバカマ / 同 / ユキワリソウ / ? / サクラ / レディース
  2. ^いず女史もトモエさんも、お酒はイケるクチである。

◎翌日の佐渡金山見学の様子は〔こちら〕。

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