銅山川瀬場谷

日程:2025/08/21

概要:吉野川水系銅山川の支流・瀬場谷の遡行。瀬場から入渓し、八間滝50mほかのたくさんの滝を越えたり巻いたりして登山道が三度目に横切るところで遡行を終了。登山道を使って起点に戻る。

◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:トモコ女史

山行寸描

▲〔動画〕銅山川瀬場谷の遡行のあらまし。(2025/08/21撮影)

◎「銅山川床鍋谷」からの続き。

◎本稿での地名の同定は、主に『関西起点沢登りルート100』(山と溪谷社 2011年。増補改訂版は〔こちら〕)の記述を参照しています。

2025/08/21

△06:05 瀬場(入渓) → 07:35 八間滝 → 09:55 最初の登山道横断点 → 12:35 2度目の登山道横断点 → 13:35-40 3度目の登山道横断点(脱渓) → 15:40 瀬場

今日も午後にはにわか雨が降るという予報だったので、泊まり場を4時半に出てまずはコンビニで朝食と行動食を調達。そして昨日と同じ道を辿って銅山川を目指しました。それにしてもすごいと思うのは、新居浜市街から一気に1000mほども高度を上げるこの道(愛媛県道47号新居浜別子山線)からの北側の眺めで、四国山地がいかに急峻であるかを容易に体感できてしまいます。

瀬場谷は昨日遡行した床鍋谷と同じく銅山川の支流で、床鍋谷より一本上流側で銅山川に合流します。その合流点近くの橋を越えて少し床鍋側に進んだところに車を駐められるスペースがあり、ここで身繕いをしてからこの日の遡行を開始しました。入渓場所は瀬場谷に架かる橋を渡ってすぐに瀬場谷沿いの細い道に入り、赤石山荘に通じる瀬場登山口の手前を右です。

出だしは鬱蒼として雰囲気が暗く、なかなかモチベーションが上がりません。それでもすぐに釜を前に置いた3段10m滝や4m滝が現れて、トポに書かれているように無数の滝が凝集しているこの沢の片鱗を早くも見せつけてきます。

4段15m滝もなかなかの美瀑で、もし午後に雨が降るという予報でなかったなら、トモコ女史はこの滝の直登を試みたことでしょう。実際、ラインを選べば登れなくもなさそうではありますが、ここはトポの記述を尊重して左(右岸)から巻きました。

続いて取水堰堤の手前には大きな釜があり、その向こうに階段状の滝があって手招きをしています。

しかし、そこに行くには目の前の釜を泳いで渡る必要がありますが、昨日の雨のせいか水は汚く濁り、とても泳ぐ気にはなれません。ここはすごすごと左岸から巻くことにし、導水路まで上がって堰堤の上流に進むと、その先に大きな滝の気配が広がりました。

これがこの沢最大の滝で地理院地図にも載っている八間滝50mです。これは確かに一見の価値がある雄大な滝で、いくら見ていても見飽きることはなさそうですが、昨日もそうであったように手持ちのギアでは太刀打ちできそうにないので、左から巻きにかかりました。

巻くと言ってもピンクテープなどがあるわけではなく、自力でルートファインディングをしなければなりませんが、沢登りに関しては私よりはるかに経験豊富なトモコ女史は迷う様子もなく滝の近くからルンゼ沿いの尾根を登り、岩壁にぶつかったところで尾根の右寄りにさらなる登路を見出しました。そのルートファインディング能力に舌を巻きながらここでロープを取り出し、トモコ女史にリードしてもらって2ピッチ半(40mロープ)で滝の上流側に出ると、手っ取り早く懸垂下降で沢筋に回帰しました。この高巻きルートはトポに言うところの斜上するクラックを経てはいませんでしたが、それでも1時間で高巻きを終えることができたので、正解ルート(のひとつ)だったと評価して良さそうです。

降り着いたところは八間滝の落ち口から少し上流に入ったところで、両岸が迫ったゴルジュ状になっています。ここでロープをしまったら、以後は次々に出てくる滝を各自適当なラインで越えていくことになります。

面白かったのは上の写真の滝(仮称「裏見の滝」)で、庇状に出た岩の先から水を落としている滝の裏側をバンドを伝って右から左に渡り、バンドのどんづまりから滝の上に出るというものです。ここだけはレインウェアを着込み、多少の水をかぶりながらも水圧を感じることはなく滝の裏を通過できて楽しかったのですが、実はそこから滝の上に上がる一手がバランスが悪くて意外に難しく、トモコ女史も私もそこで時間を使ってしまいました。

二俣の手前の大きな滝は左から、二俣を越えた先の大きな滝は右からそれぞれかわして進むと、ようやく登山道に出ました。

この沢は途中3回登山道が横断する作りになっており、これはその最初のもので標高は960m。入渓点が標高660mですから、3時間50分かけてまだ300mしか高さを稼げていない計算です。瀬場谷、恐るべし……。

登山道の上流の滝は適宜登りやすそうなところを登り、登山道を部分的に使った高巻きも交えて時間と安全を買いましたが、実はこの日は最後まで雨が降ることはなかったので、後から思えばもう少し時間をかけてそれぞれの滝の直登を試みてもよかったかもしれません。

トポでは2段10mの横にじゃがいもの形に書かれた丸印がこの大スラブだろうと思いますが、これは私の登攀意欲をそそります。

オブザベーションしたところでは、左下から右上に低く続く外傾ランペを渡り、右寄りに縦に入っているクラックに達したらこれを直上するラインが自然に思えたのでその線を進んだのですが、実際に登ってみると予想していたほどには都合のいいホールドがなく、沢靴でのフットジャムも駆使しながらのちょっとした奮闘になりました。

大スラブが終わり、そこから連続する斜めのトイ状の滝を越えるとまた連瀑帯になり、すでに満腹感を感じつつも一つ一つパズルを解くようにして滝を越え続けていきます。

この階段状の滝は、右寄りの乾いた部分が抜群のフリクションを提供してくれて気分よし。いやあ、やはり乾いた岩の登攀は楽しいものですね。

そういう私の内心の声が聞こえたのか、この頃からトモコ女史は出てくる滝の(弱点ではなく)強点に積極的にトライするようになってきました。事前の打合せで私は基本、積極的に巻きますと言っていたのは何だったんですか?

2度目の登山道横断点に着いたのは12時半すぎで、入渓から6時間強が経過しています。実は、もし天気予報が好天を示していたら持参した幕営装備を担ぎ、瀬場谷の遡行を終えたところでトモコ女史と別れて一人で東赤石山に登ってから銅山峰ヒュッテを目指すというプランを持っていたのですが、午後からの降雨予報のためにそれを諦めて日帰り装備にしていたことをむしろラッキーだったと思いました。もし重荷を背負った状態で登っていたら瀬場谷の遡行終了時刻は相当遅いものになり、銅山峰ヒュッテ到着も覚束なくなっていたことでしょう。

2度目の登山道横断点をすぎた後の瀬場谷はすっかり癒し渓で、思いがけずカワトンボの仲間が顔を見せてくれました。特にその雄の腹の光沢のある緑色は美しく、まるで宝石のように輝いていました。

やがてピンクテープが出てきたら登山道が沢と並行するようになり、いつでも遡行を終了できる状態です。この先にはこれといった滝もないので途中で打ち切ってもよかったのですが、ここまできたら最後まで歩こうと3度目の登山道横断点まで律儀に遡行を続け、そしてそこで沢装備を解除しました。

昨日の床鍋谷と同様に、瀬場谷も下り道は歩きやすい登山道で、その途中では木の間越しに八間滝らしきものを見下ろすことができました。この八間滝を筆頭に、次から次へと出てくる滝にはいささか食傷気味になり、またいくつかの滝の巻きについては後悔もなくはなかったのですが、それでも充実した遡行の思い出を作ることができた幸福感を味わいながら、2時間の下りで登山口に降り着きました。


予定していた2本の沢登りを無事に終えた後、私はトモコ女史に新居浜市内まで送ってもらって、あらかじめ予約してある格安ホテルに投宿しました。せっかく新居浜に来ているのだからもう1日この地に留まって別子銅山見学をしようというのが私のもくろみで、翌日の仕事に備えて早めに帰阪しなければならないトモコ女史とはここでお別れです。トモコさん、二日間ありがとうございました。特に今日は、トモコさんのルートファインディング能力にずいぶん助けられました。またいずれ、どこかの山か沢でご一緒しましょう。ただしそのときには、私もフル装備を持参してトモコさんの登攀意欲に応えられるようにしますよ。

◎別子銅山見学の様子は〔こちら〕。