塾長の山行記録
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塾長の山行記録

一ノ倉沢烏帽子沢奥壁中央カンテ〔敗退〕

日程:2005/05/22

概要:烏帽子沢奥壁中央カンテを目指すも、2ピッチ登ったところでルート状態の悪さとひっきりなしの落石のために撤退。

山頂:---

同行:シュクラさん

山行寸描

▲中央カンテ(兼・凹状岩壁)1ピッチ目。ちょうど先行パーティーが取り付いているところだった。(2005/05/22撮影)
▲1ピッチ目のトラバース。下の幅広いテラスではなく、その上の狭いバンドをカニのように進む。(2005/05/22撮影)
▲退却!下降中も上からの落石に気が抜けない。(2005/05/22撮影)
▲見上げる中央カンテ。落石はその右の凹状部から降ってきていた。(2005/05/22撮影)

◎「一ノ倉沢衝立岩中央稜」からの続き。

2005/05/22

△06:00 一ノ倉沢出合 → △06:30 テールリッジ末端 → △07:10 中央稜取付 → △07:25-50 中央カンテ取付 → △09:10-45 2ピッチ目終了点 → △10:15-30 中央カンテ取付 → △10:50-11:10 中央稜取付 → △12:00 テールリッジ末端 → △12:20 一ノ倉沢出合

今日もゆっくり出発。一ノ倉沢でこんなにのんびりしていいのかな?という感じですが、駐車場に泊まっているパーティーは大半が今日は中央稜を登るということはあらかじめ情報収集済みです。天気は昨日にくらべると曇りがちですが、薄く青空も見えていて日差しがきつくない分かえってコンディションとしてはいいかもしれません。テールリッジを登って中央稜取付で小休止、そのまますぐに左に回り込んで中央カンテ取付へトラバースします。

奥を見やると中央カンテ / 凹状岩壁取付には先客がいて、ちょうどトップが屈曲部を越えて左上を始めたところ。その下のトラバース道が妙にザレていて悪いのですが、それでも我々も中央カンテの取付まで進んで準備を始めました。するとそのとき地鳴りのような大音響が左奥の南稜の向こうから響いてきて、なんだ?と驚いてそちらを見るとドドーン!という崩壊音と共に雪の塊が南稜のスカイラインを越えて飛び散り、南稜テラスのクライマーたちを右往左往させています。どうやら本谷上部の残雪が大崩落を起こしたようでしたが、いやー恐ろしい。今日も谷川岳の神様は機嫌が悪いようです。

しかし人ごとみたいに言っていますが我々のいるところも決して安全ではなく、ギアを装着してシューズを履き替えている間にもひっきりなしに上から細かい石が降ってきています。そうした石は時折カン!という音をたててヘルメットに当たったりしており、たまには「ラク!」のコールとブンッ!と空気を震わす音がして、壁にへばりつくと握りこぶし大の岩が派手な音をたてて背中側を落ちていったりもしました。自然落石はともかく人為落石は「勘弁してくれ!」という気持ちになりながらまずは私のリードですが、もし上からの落石があまりにひどいようなら深入りせず撤退することを登攀開始前に申し合わせました。

1ピッチ目はトポではIII+、狭いバンドをトラバースしていって、草付スラブが出たら切り返して左上にかかったのですが、こちらもなんだか砂っぽい感じだし、それに妙にランナウトしていてボヤキが口をついて出てきます。ただしビレイポイントはハンガーボルトも使われたしっかりした支点で、ここにセカンドのシュクラさんを迎えてリード交代です。

シュクラさんは目の前の壁を越えて左のスラブ状フェースに消えていきましたが、しばらくはロープが伸びたもののこれも動きがずいぶん遅く、時折思い出したようにロープが出ていく程度。その間にも上からはかなりの頻度で小石や岩が落ちてきて、こちらは落石のルートから外れてはいても念のためそのつど壁にへばりつきました。あるときなど大きな黒い影が空中に飛んで「うわっ!」と身を伏せたら鳥だったりもしましたが、そうしたフェイントはもちろんまれ。やがてぶら下がっているハーネスが腰に痛くなってきた頃に、今度は上からキンキンとピトンを打つ音が響いてきました。いったいどうしたんだ?と訝しんでいたところ、ややあってようやくコールがかかり、ロープを送り出してから後続しました。スラブ状のフェースに出てみると、こちらもホールドというホールドの上に砂や枯草が乗っていてかなり悪く、とてもIII級という感じではありません。しかも本来中央カンテ方向へ左にトラバースしていかなければならないのに、そちらに行こうとすると上(凹状岩壁を登攀中のパーティー)からの落石に当たりそうでほとんどロシアンルーレット状態。結局、シュクラさんはホールドの悪さと落石とを避けるために右壁沿いに凹状壁右上の支点へと追い上げられていたのでした。

シュクラさんの待つ支点に着いたところで敗退決定。このまま中央カンテ方面へ乗り出していくのは自殺行為です。シュクラさんは、以前ここを登ったときはこんなにザレていなかったし、そのときの先行パーティーはこれほど石を落としたりはしなかったと不思議がっていましたが、この落石頻度を見るとロープが壁に触れただけでどんどん石が落ちてきている感じで、凹状岩壁の上部がかなり荒れているらしいことが推測できました。

支点にスリングを足したりスパゲティのように絡んだロープをほどいたりしているうちに30分ほどが経過し、ようやく態勢が整ってシュクラさん、私の順に1ピッチ目のビレイポイントへ退却しましたが、下降の途中でも上からの落石はやむことがありませんでした。ビレイポイントからは屈曲点を越えてまっすぐ下のバンドまで下って、ロープを回収してからいったん中央カンテ取付へ戻りましたが、ザレたバンドをクライムダウンするのがいやだったので、横断バンドを中央稜方向へ回り込むあたりまで再び懸垂下降の要領でロープを伸ばしました。

中央稜取付に戻って靴を履き替え、ダイレクトカンテを登るパーティーを見物しながら行動食をとりましたが、ここも安住の地ではなく、中央稜上部からの落石が時折降ってきてまるでさっさと下れと我々を促しているようでした。

残雪の崩壊音や烏帽子沢奥壁の落石など、いかにも谷川岳らしいといえば谷川岳らしかったのですが、それにしても今日のルート状況はひど過ぎます。ザレが洗い流され、浮き石が落ちきる秋になんとか時間を見つけて再挑戦したいものだと思いながら、土合への道を歩きました。


ルートがザレていたり、凹状岩壁からひっきりなしに落石があった原因は、帰宅した翌々日にわかりました。ACMLに流れた情報によれば、凹状岩壁の6ピッチ目(ピナクルの上)が昨年の地震で25-30m崩壊したため本来のルートが消滅しており、その砕石が下部のルート上に散乱していたのでした。ちなみに凹状岩壁ルート自体は崩壊部で右のルンゼにトラバースし、ルンゼを少し登って右のカンテに抜け約25mのランナウトで従来のルートに戻れるとのことです。

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