塾長の山行記録
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塾長の山行記録

一ノ倉沢衝立岩中央稜

日程:2003/09/27

概要:一ノ倉沢を詰めてテールリッジから衝立岩基部に達し、中央稜を登る。登攀終了後は北稜を懸垂下降の連続で下降。

山頂:---

同行:Niizawa氏 / Sakurai氏

山行寸描

▲一ノ倉沢出合。上の画像をクリックすると、衝立岩中央稜の登攀の概要が見られます。(2003/09/27撮影)
▲衝立岩の圧倒的な姿。谷川岳に帰ってきたという実感が湧いてくる。(2003/09/27撮影)
▲第二フェースのビレイポイント。女性2人パーティーが抜けるのを待機中。(2003/09/27撮影)
▲6ピッチ目の堅いフェース。ホールドはしっかりしており、高度感も抜群で快適。(2003/09/27撮影)

2003/09/27

△05:30 一ノ倉沢出合 → △06:15 テールリッジ下 → △07:05-08:20 中央稜取付 → △13:15-25 終了点 → △15:30 コップスラブ → △17:20 一ノ倉沢出合

先日の黄蓮谷右俣を大奮闘としたにもかかわらず、懲りもせずにNiizawa氏・Sakurai氏と今度は一ノ倉沢。私は昨年現場監督氏・さかぼう氏と烏帽子沢奥壁南稜を登っており2回目の一ノ倉沢なので、2人からガイド役を仰せつかったわけです。中央稜は一ノ倉沢の中では南稜とともに最も取り付きやすいルートとされており、それなら登攀の力量的には差のない3人の誰がリードしてもいいのですが、2人からは「塾長が全ピッチリードせよ」との厳しい……というか、実はうれしい指令を受けました。そんなわけで上機嫌で前夜Niizawa氏の車に拾っていただき、関越道を順調に走って着いた一ノ倉沢出合の駐車場で仮眠をとりました。

朝、5時頃に続々クライマーが出発するのを見送りながら身繕ろいをし、こちらも5時半に出発。右岸の道を進んでいったん沢床に降り、昨年は誤って左岸に上がったところも間違えずに再び右岸のリッジを登ります。ずいぶんな急登に息が上がりそうになりながら高度を上げると唐突にテールリッジ対岸の開けた場所に出て、そこにはフィックスロープが2本セットしてあり、下を見るとかなりの急傾斜が沢床まで落ち込んでいて先行のクライマーがロープにすがってクライムダウンしていました。我々はここでハーネスをつけ懸垂下降することにしましたが、ここで私にハプニング。ザックから伸びているプラティパスのチューブの吸い口がふとした拍子にショルダーベルトにひっかかってとれてしまい、次の瞬間チューブからアミノサプリが噴出したために「もったいない!」とあわててチューブを口に当て一気に大量のアミノサプリを飲み干したのですが、これが後にやってくる悲劇の原因となりました。

慎重にこの斜面を下って滝の上を渡り、ザレ気味の岩を登ってテールリッジ末端に到着したら、ここからは私にとっては去年も登った道で、岩も乾いており問題なく前進しました。ところがそのうちなぜか急にキジ心がわいてきて「出掛けに駐車場のトイレでちゃんとお勤めをすますべきだったな」と反省しながらテールリッジの途中の樹林の中で道の脇にそれ、テールリッジの神様にお詫びを言いながら用を足しました。

すぐに復帰して登りを続け、ほどなく到達したテールリッジ上端が衝立岩の中央稜取付で、先行パーティーは準備中の2人だけ。人気ルートなのにこれは運がいいぞと喜んだものの、先ほどからどうも腹の調子がおかしい……というより、はっきり○痢の症状で下腹部にマグマが胎動しているのがわかります。しばらく我慢していれば収まるだろうと額に脂汗を浮かべながら待機していましたが、どうにもこらえられなくなってNiizawa氏とSakurai氏に「す、すみません。ちょっと下へ行ってきます」と事情を説明してテールリッジを少し下り、登りパーティーが途切れたタイミングを狙って岩陰で再びしゃがみ込みました。

ルートに取りつく前だというのに早くもへろへろになりながら戻ると、先の2人組はまだ1ピッチ目でその後に4人組が待機しており、こちらは2人ずつ2パーティーで登るようです。そんなわけで、せっかく早く取付に着いたのに私のせいで1時間ほども空しく過ごしてしまいました。もっとも、その間すぐ右に広がる衝立岩正面壁を登るパーティーのトップが第一ハング直下で大きな落石を起こす場面を目撃し、谷川岳の岩場に来た実感を味わうこともできました。

我々の後ろには2人組1パーティーだけなので「我々は3人で遅いですからよろしければお先にどうぞ」と声を掛けたところ「我々もゆっくり行きますから」との返事があり(ここでこの2人が後続して下さったことが、後で意味を持ちます)、そこで先行のセカンドがある程度進んだところでようやく私のリードで登攀を開始しました。腹の調子はまだおかしいのですが、ここまで来たらウンを天に任せるしかありません。

1ピッチ目(IV)は階段状の易しい岩場を左上のリッジ目指して登り、途中縦ホールドの立った部分も出てきてここがIV級なのだと思いつつあっさり越えました。リッジのしっかりしたテラスにビレイポイントは二つ程ありますが、できるだけロープを伸ばして奥の支点で後続を確保し、Sakurai氏、Niizawa氏の順番で迎えました。

2ピッチ目(III)は出だしを左奥に回り込むとすぐに土のルンゼとなっており、ここを簡単に直上していくと先行の女性2人組のセカンドがルンゼの突き当たりでビレイを解除し右に回りこもうとしていたので、私も彼女がビレイしていた位置まで上がって入れ替わりに確保態勢に入りました。

3ピッチ目(IV)はけっこう際どいトラバースでリッジ右側のフェースに戻り、そこから真っすぐ上がってビレイポイントに割り込ませてもらいました。この上が核心部になっているため先行パーティーも動きが遅く、テラスには4人組のうち3人が待機していました。このためNiizawa氏とSakurai氏に途中で少し待ってもらい、先行パーティーの残りが1人になったところで再び進んでもらいました。

4ピッチ目(IV,A0)がこのルートの核心ピッチで、フェースを直上してから細かいホールドを頼りに右へ回り込み、右上のチムニーを登りました。先行のセカンドもすぐ上にいて、上にいるビレイヤーに「ここ左(のフェース)に出るの?怖いからロープ張ってて〜」と叫んでいます。彼女が抜けるのを見送りながらこちらもチムニーに入り、途中のカラフルで長く伸びた残置スリング2本をランナーに使ってなんとか自力でチムニーを抜けようとがんばりましたが、最後の1手のホールドがどうにも甘く、ああでもないこうでもないと奮闘しているうちに足が震えてきました。とうとう目の前に垂れている白いテープスリングの誘惑に負けてしまい、これをつかんで左のフェースに回り大声で「くそー!だめだったー!」と自分に悪態をつきながらすぐ上のビレイポイントに辿り着くと、前のパーティーのビレイヤー(核心ピッチのリード)がくすくす笑いながら「お疲れさまでした」と迎えてくれました。

5ピッチ目(III)はリッジ左側(烏帽子沢奥壁側)の脆くて湿っぽいルンゼを登り、リッジ上の顕著なピナクルに作られた支点まで。

6ピッチ目(III+)は岩が堅くて明るく開けたフェースで、思わずNiizawa氏たちに「ここは快適!」と声を掛けたほど。上の方で抜群の高度感の中思い切って乗り上がる場所が1ポイントありましたが、ホールドがしっかりしているので問題ありません。ただし確保支点のレッジがちょっと狭かったので、後続には1人ずつ登ってもらいレッジで止まらずに順次先行してもらって少し上でピッチを切り直しました。

7ピッチ目、ブッシュ帯のルンゼ(II)を再び私が先行し、ロープの流れを考えて途中の岩場の下で短めに切りました。Niizawa氏とSakurai氏にはここもそのままビレイポイントを通過して先行してもらいました(III)が、この辺りで再び○痢の症状が再発。すぐ下まで来ていた後続の2人パーティーに声を掛けて先に行っていただき、肩からタスキにかけたテープスリングにメインロープを結んでセルフビレイをとってからハーネスを脱いで……(以下略)。中央稜の神様、申し訳ありません。

上で手持ち無沙汰そうに待っているNiizawa氏とSakurai氏のもとへほうほうの態で到着し、右手の凹角(II)を登ったら狭いリッジ上の終了点です。ちょうど先行していただいた2人組がロープを畳んでいるところで、ありがたいことに北稜を一緒に下りましょうと言ってくれました。お聞きするとお二人は東京白稜会のメンバーで、うち1人は何回もここを下ったことがあるとのこと。衝立岩は登りきったら安全地帯というわけではなく、北稜の下降もかなりシビアなものになることを覚悟していたのですが、ベテランに先導していただければ明るい内に下山することも可能かもしれません。すぐにNiizawa氏・Sakurai氏にも終了点へ上がってきてもらって登攀終了の余韻に浸る間もなくただちに北稜の懸垂下降点へ移動すると、既に先行の2人が懸垂下降用のロープをセットしていて、すぐにNiizawa氏・Sakurai氏・私の順で下りました。

ここからは、お二人が降りてきてロープを回収している間に先に降りた我々が次のピッチのロープを張ってお二人に先行していただいて、という懸垂下降のつるべとなりました。40mを3回ストレートに下り、滑りやすい草付の急坂を下って20m下降。そこからわずかに歩いたところから40mの空中懸垂でスラブの緩い斜面に降り立ちましたが、ここまで懸垂下降でトップが下に着くとまずロープを引いてみて回収できることを確認してからセカンド以降も降りるということを繰り返していたのに、肝心の空中懸垂のピッチでロープがひっかかって降りてきません。皆で思い切り焦りましたが、2人がかりで力任せに引いたらなんとかロープが動きだしてくれて事なきを得ました。

最後の懸垂下降はバンド状をトラバースしてから20mの断崖で、ロープの長さいっぱいに下ってコップスラブの底に降り立ったらコップスラブを横断してピナクルを巻き、沢筋を下って支沢が入る地形のところから左岸へ上がると略奪点を経て衝立前沢。後は沢下りを続けて最後の20mの滝を懸垂下降すればすぐに一ノ倉沢の本谷で、磨かれた沢床にところどころ設置されている残置ロープの世話になりながら下降を続けると右岸リッジへの取付地点に到着しました。ここからは朝来た安全な道をぐんぐん下って十分明るい内に一ノ倉沢出合に到着し、ようやく3人で握手を交わしました。

今回は思わぬ私の体調不良で2時間は無駄にしてしまったものの、我々を導いて下さった2人組のおかげで北稜をスピーディーに下降することができたのはまったく幸運でした。引き上げて行くお二人に駐車場で丁重にお礼を申し上げてから、我々もゆっくり登攀装備を解きました。

◎「マチガ沢〜東南稜」へ続く。

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