後立山縦走

日程:1993/08/08-12

概要:大雪渓から白馬岳に登り、後立山連峰を南下。唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳を越え、針ノ木岳を最後のピークとして針ノ木雪渓を扇沢へ下山。

山頂:白馬岳 2933m / 唐松岳 2696m / 五竜岳 2814m / 鹿島槍ヶ岳 2890m / 針ノ木岳 2821m

同行:---

山行寸描

▲白馬岳から南の縦走路を見通す。右の鋭いピークは剱岳。(1993/08/08撮影)
▲朝焼けの五竜岳を北側から仰ぐ。山頂に着いたときにはガスってしまった。(1993/08/10撮影)
▲針ノ木岳から振り返る後立山連峰。右よりの双耳峰は鹿島槍ヶ岳。左奥へ五竜岳、白馬岳が続く。(1993/08/12撮影)

1993/08/08

△07:45 猿倉 → △08:25-30 白馬尻 → △10:10-15 葱平 → △10:50 小雪渓 → △11:45-12:20 村営頂上宿舎 → △12:50-55 白馬岳 → △13:10-17:15 村営頂上宿舎 → △17:55-18:10 白馬岳 → △18:40 村営頂上宿舎

猿倉から白馬尻へは、山行の前途を暗示するような雨雲の下をゆっくり歩きました。天候は下り坂ですが、大雪渓は勾配に緩急をつけながら真っすぐ上へ延びています。冷気が作る霧の層が雪渓の表面を川のように流れ下っており、振り返ると頚城の山々が雲間に見え隠れ。長い大雪渓の終点では、シナノキンバイ、ハクサンフウロ、クルマユリが色とりどりに咲く岩尾根に、高山植物保全パトロールの若者が立っていました。

稜線直下の村営頂上宿舎に立ち寄り昼食をとってから、雨の中の白馬岳頂上を目指しました。白馬山荘を過ぎ、斜面を斜上して何も見えない頂上に着いたら証拠写真だけ撮り、そそくさと下って白馬山荘へ立ち寄りましたが、受付でごったがえす登山者の群れに恐れをなし村営頂上宿舎に泊まることにしました。

夕食後に外に出てみると雲が切れ、展望が広がり始めていました。天候の好転を見計らってヘリコプターが荷揚げを開始し、二つの山小屋と麓を何度も往復していましたが、相変わらず風は強く、小屋の屋根すれすれでホバリングしながらの荷の受渡しはまさに命がけという感じです。それでも思いがけない天候の好転に気を良くして、再び白馬岳山頂を目指しました。

頂上からは杓子岳・白馬鑓ヶ岳の向こうに鹿島槍ヶ岳、深奥から右手には穂高岳、槍ヶ岳から立山・剱岳までの北ア全景が連なります。眼下には白馬尻が見下ろせ、その彼方には大きく浅間山が横たわっていました。

1993/08/09

△05:30 村営頂上宿舎 → △07:10 鑓ヶ岳 → △07:55-08:10 天狗山荘 → △08:30 天狗の頭 → △09:35-50 天狗のコル → △11:55 唐松岳 → △12:15 唐松山荘

翌9日は雨で視界ゼロ。ウルップソウ、ミヤマクワガタ、チングルマ、アオノツガザクラなどの花を愛でながら歩くしかありません。わけがわからないうちに天狗山荘に着き、小休止してから天狗の大下りにかかりました。ここから本コース最初の鎖場が始まります。

目の前に不帰の岩峰群がいかめしい姿をしていましたが、取り付いてみると手掛かり足掛かりに困ることはなく、鎖に頼らなくてもすいすい登れます。幸い不帰二峰までは雨が上がっていましたが、不帰三峰から唐松岳にかけて今度は吹き降りとなり、レインウェアのパンツを履きしぶっていたためズボンがびしょ濡れになってしまいました。

雨の中到着した唐松岳は道標を確認しただけで、ひたすら歩いて唐松山荘に転がり込みました。すぐにラーメンを食して身体を温めたものの乾燥室がないのにがっかりしましたが、やがて客室棟に長さ1mほどのジェットエンジンのような乾燥機が持ち込まれました。

夕方眠りから覚めてみると、またしても雲が上がり、残照の中に五竜岳や唐松岳がそびえています。喜んで外に出て、今日越えてきた岩峰や明日越える予定の稜線をカメラに収めました。

1993/08/10

△05:55 唐松山荘 → △07:55-08:10 五竜山荘 → △09:00-05 五竜岳 → △12:05-25 八峰キレット小屋 → △13:50 鞍部 → △14:00 鹿島槍ヶ岳北峰 → △14:40-45 鹿島槍ヶ岳南峰 → △15:15 布引岳 → △15:55 冷池山荘

10日の朝は好天になり、小屋の裏手の稜線で御来光を仰いでから朝食後に出発しました。小屋を出てすぐの鎖場には少し緊張しましたが、あとは稜線の起伏が淡々と続きます。五竜山荘を過ぎての登りの途中から振り向くと富山湾が眺められましたが、徐々に雲が五竜岳の山頂を覆いだし、縦走路から少し離れたピークに到達したときにはガスで展望は失われていました。

ざくざくした下降路を下って八峰キレットへ縦走しましたが、ここも慎重に歩くために少々時間はかかるものの危険を感じることはほとんどありませんでした。いったんキレット小屋に立ち寄ってジャム入りクロワッサンと桃缶の昼食をとってから、梯子をよじ登って縦走路をさらに進みました。ガスの中を歩くことしばし、稜線に出た途端に強烈な南風に真っ向から吹かれて、そこが鹿島槍ヶ岳の双耳峰の鞍部でした。吹き飛ばされないように身を低くしながらまず北峰に登りましたが、標識も何もなくがっかりしました。ついで鞍部に戻り、意外に長い登りの後に南峰に辿り着きましたが、ここもガスと強風で何も見えません。仕方なく稜線を下り、コバイケイソウの群落を抜けて雨の中をこの日の宿である冷池山荘に向かいました。

1993/08/11

△06:25 冷池山荘 → △07:50 爺ヶ岳 → △08:20-55 種池山荘 → △10:15 岩小屋沢岳 → △10:55 新越山荘

起床してみると雨足は衰えておらず、左膝の具合も悪いので歩くか沈殿か迷いましたが、風は収まった様子なので行けるところまで行くことにしました。

種池山荘では中井美穂さんそっくりの受付嬢にお汁粉を注文しながら気象情報を聞いてみました。これに対していただいた御託宣は、この山行に雨と風を送りつけてきた台風7号が日本海を北上中であり、天気は西から回復しつつあるというものです。よってさらに足を伸ばし、新越山荘まで頑張ることにしました。

新越山荘でもジェットエンジン(?)のお世話になり、ここで借り物の文庫本=W.ギブスンの『ニューロマンサー』を読了しました。そうなってしまえば他にすることもないので同宿者同士会話に花を咲かせていると、その中に百名山完登者がおり、今年は親不知から上高地まで歩く予定だという話を聞いて一同感心。あわせて明日の好天を皆で祈りましたが、夕食時も風雨はいっこうに収まりませんでした。

1993/08/12

△05:35 新越山荘 → △06:05-20 鳴沢岳 → △06:55-07:05 赤沢岳 → △08:25-30 スバリ岳 → △09:15-10:00 針ノ木岳 → △10:45-55 針ノ木峠 → △12:40 大沢小屋 → △13:35 扇沢

期待通りきれいに晴れ上がって雲海の向こうに今山行初めて富士山の姿を見ることができ、目の前には針ノ木峠から今日下る雪渓がなだれ落ちている様子も眺められました。そして鳴沢岳から針ノ木岳にかけては、心躍る岩とハイマツのプロムナードが続きます。耳に入るのは風の音、遠い沢音、自分の足音だけ。残雪はもちろん、岩肌も樹木も横から照らす夏の朝日を浴びてきらきら輝いて見えます。

スバリ岳の岩礫地にコマクサの群落を眺め、針ノ木岳との鞍部に幕営の痕を認め、カール状地形を左に見下ろしながら、道は針ノ木岳に達しました。針ノ木岳山頂からの眺めは、360度山また山。北は白馬岳から南は乗鞍岳まで、北アルプスの思い付く限り全ての山が見渡せ、前方には裏銀座と表銀座が並走するその奥に槍ヶ岳がすっきりと立っているのが立派です。

たっぷり時間をかけて山岳展望を楽しんだ後、名残惜しい針ノ木岳山頂に別れを告げて針ノ木峠へ下りました。峠の小屋の前庭で小休止した後、扇沢を目指して一気の下りにかかると、高度を下げるにつれ最初に五竜岳が、ついで白馬岳が姿を隠し、鹿島槍ヶ岳が見えなくなったら後は軽アイゼンで雪渓を一目散に下るだけでした。