広河原沢左俣

日程:2014/12/22-23

概要:広河原沢左俣を狙って入山。初日は二俣にテントを設営し、F1まで偵察。2日目に左俣を上の大滝まで登って、深雪のためにここで行動を打ち切り、同ルート下降。その日のうちに下山。

山頂:---

同行:かっきー

山行寸描

▲下の大滝。上の画像をクリックすると、広河原沢左俣の登攀の概要が見られます。(2014/12/23撮影)
▲上の大滝。パンプに耐えながらスクリューをセット。(2014/12/23撮影)

天皇誕生日の飛び石連休は、かなり早い時期からかっきーと示し合わせて四連休にし、甲斐駒ヶ岳の黄蓮谷右俣へ行こうということにしていたのですが、今年は例年になく降雪が早く、黄蓮谷は凍る前に雪に埋まってしまったという情報を仕入れて計画を変更することになりました。それなら1月に行き損ねた八ヶ岳の広河原沢左俣にするか、と行き先を決め、直前の天気予報や仕事の都合などを勘案して12月22-23日の1泊2日行程とすることにしました。

2014/12/22

△12:00 舟山十字路 → △13:10-14:05 二俣 → △14:20-25 左俣F1 → △14:40 二俣

朝6時に高尾駅で待ち合わせて舟山十字路に着いたのは8時すぎで、さすがにこれでは早過ぎる……と車内で仮眠をとりましたが、11時頃に人が下ってくる気配に目を覚まし、車の外に出て情報収集。下りてきたのは3人パーティーで、やはり広河原沢左俣を目指したもののF1手前の釜が口を開けていたためにそこで断念したという話でした。えー!と思いはしたものの、ヒロケンさんの『チャレンジ!アルパインクライミング』にもF1は右岸から高巻けると書いてあるので、今の話は聞かなかったことにして身繕いを始めました。

舟山十字路から二俣の平坦地までは重荷を背負っても1時間の行程。しっかり踏み跡が付けられていて迷う気遣いはありませんが、行く手に見えているはずの阿弥陀岳は白い雪雲の中に隠れていました。幕営予定地には数張りのテントが置かれ、明日向かう予定の左俣にもトレースが伸びています。我々も、ベースキャンプを設営したらF1まで偵察に向かうことにしました。

わずか15分の歩きで到着したF1は手前に水面を開いており、どう考えてもこの釜には落ちたくない状況ですが、ここは手前から左(右岸)側に巻き上がるトレースが着いていることを確認して満足することにしました。このF1の手前には立派な岩小屋があって、ここなら大人数の宴会もできそうなくらい。そそられるものを感じつつ、テントに戻りました。この二俣はSoftbankでも電波が通じるのでFacebookで最新情報を検索すると、たまたまかっきーと私の共通の知人であるナルカミ氏が我々の2日前に左俣を登っているレポートがアップされていました。なるほど、谷を埋めた雪はかなり深そう。怒濤のラッセルを回避するなら同ルート下降になるのか……。

ベースキャンプは今回も、私のエアライズ1(寝室)とかっきーのシェルター(食堂)の組合せ。この日は少々運動不足気味ながら、かっきー特製つみれ鍋をメインに宴会タイムとしました。毎度のおいしい鍋に舌鼓を打ちながら各自持参した日本酒でいい気分になっていきましたが、やがてウイスキー「山崎」に手が伸びる頃からかっきーはiPhoneにダウンロードした映像をカラオケとして歌い始めました。桑名正博、上田正樹、矢沢永吉……コテコテやなぁ。かっきーも、たまにはプログレ聴きなよ。

2014/12/23

△06:40 二俣 → △08:35-09:35 下の大滝 → △10:25-11:25 上の大滝 → △13:40-14:25 二俣 → △15:15 舟山十字路

5時起床。朝食と勤行とを済ませ、明るくなるのを待って出発することにしました。ありがたいことに隣のテントのパーティーが声を掛けてくれて、左俣の上の大滝の先にトレースがないこと(彼らも同ルート下降したとのこと)を教えて下さいました。

F1の巻道は歩きやすいバンド状ですが、最後にF1の上に出るところは2mほどをフィックスロープでのゴボウ下り。そこから先は幻想的な白と灰色と黒のゴルジュが続いています。ナメ状のところでは流水が顔を出していて、結氷の遅さを窺わせました。

やがていくつかの易しい小滝が出始めましたが、ウォーミングアップがてらロープ無しでどんどん登っていきます。昨日の宴会前に研いでおいたアックスもさっくり決まって気分良好。むしろV字の谷の右斜面を登ってワンポイント微妙なトラバースをする箇所の方が怖かったのですが、ここはもしかするとヒロケンさんのトポに写真が載っている「チョックストーン滝」だったかも?しかし、ヒロケン本の写真のような氷瀑にはなっておらず、ふかふかの雪が危ういバランスで斜面にへばりついているだけでした。

やがて出てきたのが、下の大滝です。緩傾斜部も入れると12m。中間から上が80-85度でおいしそうに見えたのですが、かっきーの「上の大滝の方が見せ場」というアドバイスに従ってここはセカンドに回ることにしました。先日の春日ルンゼを登ったときに先行パーティーがやっていたように、我々もリードが荷揚げとセカンド確保を同時に行う方法を試してみようかということになり、まずかっきーが空荷になって大滝を登りました。かっきーはさすがに全く危なげなく、さっさと登って滝の上の左岸側の灌木にビレイ支点を作りましたが、実際に荷揚げをしてみるとザックが引き上げられるラインは登攀ラインからかなり右側に外れてしまう上に、途中の凹凸に引っかかってスムーズに上げられそうにありません。これではセカンドの確保がおろそかになる危険を感じたので、先にザックを引っ張り上げてもらってから後続することにしました。チリナダレを受けながら待機し、かっきーの作業が終わったところでようやく登り始めてみると、フォローする分には特に困難を感じませんでしたが、リードだと少々緊張したかもしれません。

下の大滝で時間を使っている間に、それまでどんより曇っていた空がどんどん晴れてきました。大滝のすぐ先にある巨岩は、急斜面を右から巻き。この辺りから、前日までに付けられていたトレースは吹き消され、あたかも新雪の斜面をラッセル混じりで登るような状況になってきました。

雪の斜面を登って部分的に露出している氷を楽しみながら高度を上げると、背後には谷の方向によって南アルプスが見えたり中央アルプスが見えたりしてきます。真っ青な空と真っ白な木々、そして遠くに大きな山々。最高のロケーションの中で山にいることの幸せを実感しながら、よく日の当たった雪の平坦地で小休止としました。行動食をとりながら背後の景色を楽しみ、そして目を谷の先に転じれば、そこには上の大滝が待っていました。

上の大滝は高さ約10m。ここも足元が雪に埋もれていますが、中間から上のバーティカル部はしっかり立っていました。ここは私のリード。事前の情報通りこの滝を登り終えたところで行動を終了することを想定し、空荷になって登ることにしました。

緩傾斜部が終わるところでスクリューをまず1本。見上げてみると確かに立っていますが、先人が打ち込んだアックスの跡に自分のアックスを決められるので、打込みではなく引っ掛けで身体を引き上げていくことが可能です。慎重に足を決めながら高さを上げて3mほど上にスクリューをもう1本。しかし、その次のスクリューの位置が近過ぎ、3本目のスクリューを入れている間に無駄に腕力を消耗したようです。そこから2m登って最後のスクリューが足の下に来たあたりで腕が張ってしまい、進めなくなってしまいました。なんとか両足を安定させた状態で両腕を交互にシェイクしましたが、上腕はなかなか回復してくれません。ここまでフリーできていましたが、こうなったら根性なくアックスにテンションをかけようかとPASを取り出したものの、長さ調整ができていなかったのでアックスの石突に届きません(後から考えれば、クイックドローを継ぎ足せばよかったのですが)。仕方なく覚悟を決め、でも動き出す前にもう一つスクリューをセットして保険をかけてから、すっかり握力のなくなった腕を振ってアックスを落ち口近くに打ち込み、足を上げていきました。最後は身体の前に垂らしたままだったPASがアイゼンに引っ掛かるアクシデントにも見舞われつつ、なんとか落ち口に乗り上がってそのまま少し上の右岸の灌木に残置されている支点までロープを引きました。

やれやれ、久しぶりに痺れる登攀だったが、落ちなくてよかった!しかしアックステンションのかけ方については改めて要練習です。

後続のかっきーを迎えたところで、この先の行動を協議しましたが、事前の情報の通りこの先に踏み跡はなく、さらに進もうとすれば部分的に腰までのラッセルになりそうなので、ここから引き返すことにしました。それぞれの滝にはスリングで懸垂下降のための支点が用意されており、それらをありがたく使わせていただくことで、登ってきた谷をぐんぐん下れます。懸垂下降はすべて50mロープ1本で足りるので、片方のロープで懸垂下降したら一方がロープを片付けている間に他方が先行して次の滝の支点に自分のロープをセットする、といったことを繰り返して効率化を図りました。

F1の巻道にフィックスロープのゴボウ登りで乗り上がったら危険地帯は終了です。二俣に戻ると、我々以外のテントはすべて撤収されており、最後のパーティーが下山しようとしているところでした。


下山して「もみの湯」ですっかり温まった後、かっきーも私も大好きな甲府の「美味小家」のとんかつに胸を膨らませながら車を飛ばしましたが、途中で巨大な南アルプスの山々や富士山が綺麗な夕焼け色に染まっている光景を目にし、思わず車を停めて写真を撮りました。

この夕焼けに見惚れている時点では我々は、この日が「美味小家」の定休日であるということに気付いていませんでした……。

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