北岳バットレス上部フランケ
日程:2010/08/23
概要:荷物を二俣にデポしてから大樺沢沿いの登山道を上がってD沢を詰め、第五尾根支稜経由でDガリーを直上。上部フランケを登って第四尾根終了点に達し、そのまま下山。
山頂:---
同行:常吉さん
山行寸描
◎「北岳バットレスDガリー奥壁」からの続き。
2010/08/23
△02:45 白根御池 → △03:10-25 二俣 → △05:20-35 Dガリー大滝下 → △06:00 Dガリー大滝上 → △07:10-15 上部フランケ取付 → △09:50-10:30 靴脱ぎ場 → △11:15 八本歯のコル → △12:20-30 二俣 → △13:50 広河原
予定通り1時半に起床。朝食を済ませると、テントをはじめ荷物を全てリュックサックに収納して二俣に向かいました。下山のスピードアップのために登攀具以外の荷物は二俣にデポする作戦です。
二俣の広場の隅にある岩の間にリュックサックを並べ、常吉さんのツェルトをかぶせて重石を乗せると、昨日と同様に大樺沢沿いの道を登りました。さすがにちょっと早過ぎたようでバットレス沢に達しても真っ暗だったため、岩陰で風を避けながら20分ほど日の出待ち。少し明るくなったところで行動を再開し、昨日と同じくD沢を遡りました。ただし涸滝状になっているところを今回は左から回り込んでみたところ、しっかりした踏み跡があり問題なく下部岩壁下のお花畑の斜面に出ることができました。そして前日とのもう一つの違いは、先行パーティーが皆無だったことです。
前日と同様にDガリー大滝の上に出て、ロープを解いてDガリーを詰め、少し早めにアンザイレンしなおしてまず1ピッチ。
下部フランケからDガリーへ合流する地点でピッチを切って、もう1ピッチ伸ばしたところで上部フランケを右上に見上げる位置にある支点に達しました。ルートはここからDガリーを離れて上部フランケの入口にあたる「かぶった凹角」を目指すことになるのでそこまで常吉さんにロープを伸ばしていただくことにしましたが、ここで私がチョンボ。2人ともここまでアプローチシューズで登っていて、常吉さんから「あそこまで登ったところでシューズを履き替えるんですね?」と聞かれ「そうです」と答えてしまったのですが、Dガリー内のすぐ横に安定したテラスがあったので、そこでクライミングシューズに履き替えてから常吉さんを送り出すべきでした。結局、常吉さんは「かぶった凹角」直下で不安定な態勢でシューズを履き替えることになり、私もDガリーのビレイポイントにつながった窮屈な状態で脱ぎ履きをすることになってしまいました。
1ピッチ目(30m / III+):常吉さんのリード。「かぶった凹角」の直下まで草付からスレート状のランペを登るピッチですが、常吉さんは本線よりもやや右寄り(第四尾根主稜寄り)にラインをとったため脆い岩につかまり、大量の落石を起こしてしまいました。Dガリーめがけてばらばらと降ってくる岩を壁に身を寄せてやり過ごすと共に下に向かって「ラークッ!」と叫んだところ、ややあってはるか下から「オーラーイ!」と小さな声が聞こえてきました。後続パーティーがいたのか!とぞっとしましたが、どうやら事故にはならなかった模様でほっとしました(すみませんでした)。そしてこのときの声が八本歯の登山道まで聞こえたようで、登山者から我々に対して黄色い声援が飛んできました。
2ピッチ目(30m / IV+):私のリード。核心の「かぶった凹角」ですが、まず右手の立体的な構造を3m上がると小さいテラスに乗り上がれ、そこで凹角内(テラスの左側)に信頼できる残置ピンでランナーをとりました。ついで凹角左のスラブに横に走る細いスタンスに乗り込み右からの岩の出っ張りを探るとしっかりしたホールドを得られて、後は手順足順を考えて身体を引き上げ右の岩を回り込むように上がれば核心部は終了。トポには「V級」となっていますが、体感IV+といったところです。そのまま右の壁沿いに少し上がると草の中にバケツ状に階段ができていて、その先に安定した支点あり。常吉さんも「ここは面白い!」と言いながら軽快に後続してきました。
3ピッチ目(40m / III):常吉さんのリード。出だしはコーナークラックに足をつっこんでいくピッチですが、私が「両足フットジャムらしいですよ」などと余計なアドバイスをしたために常吉さんは一度ずるずる落ちかける羽目に。ここは最初のランナーをとるまでが少々手間取りますが、右足クラック、左足はスラブ(=シュヴァルツカンテの上面)にベタ置きで、手の位置を右壁やクラック内に求めていけば案外すんなり登れます。このことに気付いた常吉さんは最初の数mを突破すると、後はすいすいと快調にロープを伸ばしていきました。そしてこのピッチが終わるところはマッチ箱から懸垂下降して降り立つ場所でした。
4ピッチ目(30m / III):私のリード。第四尾根と同じラインをスラブからリッジへ、おむすび状のフェースの手前まで。
5ピッチ目(40m / III):常吉さんのリード。リッジ左の草付凹角を登り、枯れ木テラスを越えて城塞の上の支点まで。この草付凹角を登るのはこれが初めてですが、特に難しいところはありませんでした。
ところで冒頭に先行パーティーがいないと書きましたが、先ほどからCガリーの方からコールや落石の音が響いていたので、どうやら中央稜を登ろうとしているパーティーがいる様子です。枯れ木テラスから見下ろすと確かにアンザイレンした状態で中央稜の取付を探している2人組が見えましたが、どうやら取付を見つけられずにいる様子。お節介な私はまたしても2人に声を掛け、以前ヤマダくんと登ったときの取付の位置を知らせましたが、その助言で2人が中央稜を登れたかどうかを見極めることなく、我々は靴脱ぎ場に上がって登攀を終了しました。
この日も登攀中は快晴、そして終了点に着く頃にガスがあがってきて視界が遮られるようになりましたが、山頂を省略して八本歯経由で下山する途中で一時的にガスが上がり、上の画像のようにバットレスの全景が一望できるようになりました。北岳の粋な計らいに感謝!上部フランケは下部フランケやDガリー奥壁に比べると少しマイナー感が漂いますが、登ってみれば「かぶった凹角」以降の2ピッチはすこぶる快適で楽しく、もっと登られてほしいルートだと思いました。
後は二俣でデポしていた荷物を回収し、そこからも頑張って下ったおかげで広河原発14時ちょうどのバスに乗って芦安に戻ることができました。ここで風呂に入ってさっぱりした後、韮崎に出て焼肉屋に入って楽しかった3日間の山行を打ち上げました。
これで、北岳バットレスの主要ルートのうち自分が登れていないのはピラミッドフェースを残すばかり。そんなわけでその後の9月下旬の飛び石連休や10月の三連休では北岳再訪問も行き先候補にあがったのですが、雨のためにいずれも中止になってしまいました。ところが、10月10日にバットレス基部で幕営していたクライマーが落石に当たって死亡し、さらに13日にはバットレスを登った3人パーティーがルートを進めずヘリコプターで救出される事態が生じました。何が起こったのか?
原因は、枯れ木テラス周辺の崩落でした。上の写真を見ると、Dガリー奥壁の最上部のクラックから上に抜ける地点の岩がごっそり崩れて、Cガリーにその爪痕を残しているようです。確かに大チムニーから続く裂け目は我々が今回登ったときにも顕著(右の写真)で、識者の間ではその拡張が話題になっていたということですが、それにしても本当に崩壊してしまうとは。
この地点は第四尾根周辺のルートの事実上の終点であるとともに、中央稜1ピッチ目への起点ともなる場所だけにダメージは大きく、ただちに登攀禁止の措置がとられました。ひと冬越して雪が消えたときに岩がどれだけ安定するか次第でルート再生の可能性の有無が見極められることになるのだと思いますが、こうなると枯れ木テラスの下のカンテ、さらにはマッチ箱までいつどうなるかわからない怖さがあります。いつの日か第四尾根主稜の上半部はなくなってしまい、Dガリー奥壁の上部がバットレスから山頂へ抜ける唯一のルートになってしまうのかもしれません。