那須岳〔敗退〕

日程:2005/10/22-23

概要:那須ロープウェイの終点から鉢巻き道をぐるっと回って牛ヶ首から姥ヶ平経由三斗小屋温泉の煙草屋へ。翌日井戸沢を遡行するはずが思わぬ雪に撤退を決め、峰の茶屋経由で下山。

山頂:---

同行:F女史

山行寸描

▲井戸沢敗退の顛末……。(2005/10/22-23撮影)

那須の美渓・井戸沢には前々から関心があって、技術的にもさほど難しくないということなので、F女史を連れて温泉泊まりののんびり遡行を企画しました。初日は紅葉を愛でながら那須岳を越えて三斗小屋温泉まで下り、翌日さらに1時間下ってから井戸沢を遡行して大峠・峰の茶屋経由下山というプランとし、これを今年の草鞋納め遡行とするつもりだったのですが……。

2005/10/22

△11:00 ロープウェイ山頂駅 → △11:30 牛ヶ首 → △11:55 姥ヶ平 → △12:25 沼原・三斗小屋分岐 → △13:05 沼原分岐 → △13:25 三斗小屋温泉(煙草屋)

久しぶりの那須岳。予報通り曇りがち、しかも山頂はガスに覆われていますが、ロープウェイ駅周辺の紅葉はそれなりにいい感じ。今回は明日の井戸沢遡行にポイントがあるのでためらうことなくロープウェイで高度を稼ぎ、鉢巻き道をぐるりと歩いて山の裏側に回り込むことにしました。

ガスの中、時折小雨のぱらつくような天気ですが、牛ヶ首から硫黄の匂いと色の噴気口を経てベンチも置かれた広場のような姥ヶ平に下ると、大きなナナカマドが葉をすっかり落として赤い実をたわわにつけているのに出会いました。その手前ではダケカンバ林も裸になりつつあって、この辺りはすっかり初冬の装いのようです。

それでもひょうたん池で赤・黄・オレンジの色彩が実に見事な景色に見とれたりしながら山道を下り、分岐を右に折れて等高線に沿うように北上しました。林の中は紅黄葉の落ち葉が絨毯のように敷き詰められており、まだらに色づいた葉もちらほら見られたりして飽きるということがありません。

御沢を橋で渡ってひと登りし、峰の茶屋からの道に合流して歩きやすい道を下りました。この道が歩きやすいのも道理で、これはかつて牛が資材をかついで山越えをしていた道なのだそうです。やがて目の前に古びた建物が複数建っている三斗小屋温泉に到着し、2軒ある宿のうちあらかじめ予約してある「煙草屋」に投宿しました。

個室をあてがわれて、とりあえず荷を下ろし一息ついてから入浴です。風呂は高台に露天があり、内湯は二つ。内湯の一つは女性専用でもう一つの広い方と露天は時間帯によって女性専用となります。まずはF女史が女性用内湯につかってさっぱりしてから、続いて私も内湯に入ってみました。風呂場の中は板敷きで広い湯船が仕切り板で三槽に分かれ、奥のかなり熱い湯から手前のぬる湯まで三種類の温度が用意されており、熱いところでしばらく我慢してはぬる湯に退却してほっとするといったことを繰り返していると、身体の芯まで暖まってきます。窓からは近くの木々の紅葉が見えており、その上にはどうやら青空も広がり始めている様子。しめしめ、明日は良い沢日和になりそうだ、などと思いながら1時間ほども湯につかっていましたが、おかげで湯当たりしてしまったらしく風呂をあがるときにはふらふらになってしまいました。

16時半の夕食がすんだ後、速攻で17時に就寝したのですが、日付が変わる頃に窓の外でフラッシュをたくような光に目が覚めました。続いてバリバリ、ドーン!という激しい雷鳴。光と音の響宴はかなり長い時間続き、一度などは小屋全体が揺れるほどの震動も感じたくらい激しいものでしたが、宿の近くにテントで泊まっている登山者たちは大丈夫かな?と気にしながらも、やがて再び眠りについてしまいました。

2005/10/23

△06:50 三斗小屋温泉(煙草屋) → △07:15 沼原分岐 → △08:10-15 峰の茶屋跡避難小屋 → △09:00 ロープウェイ山麓駅

5時頃再び目を覚まし、窓の外を眺めてびっくり。まだ薄暗くはありますが、屋根の上に積もった白い雪ははっきりと見えています。ある程度の寒さは覚悟していたもののまさか雪になるとは思っていませんでした。昨夜の雷は寒気の流入に伴うものだったのでしょう。とりあえず今のところ雪はやんでいますが、これでは沢登りは中止です。

そうと決めたら下山は早い方がベター。6時からの朝食を終え、上下をゴアテックスのウェアで固めて宿を出ました。折りしも雪がはっきりと降り始めており、急ぎ足で峰の茶屋へのしっかりした登山道を緩やかに登りました。

あたりはどんどん白と灰色に埋め尽くされようとしており、足元のざらめ状の雪に封印されつつある色とりどりの落ち葉やナナカマドの実の赤がかろうじて網膜に刺激を与えてくれますが、あたりが開けて避難小屋の立つ広場に達すると、茶臼岳から峰の茶屋への稜線に向けて強烈な風が吹き抜けているのがごうごうという音ではっきりわかります。ガイドマップにも「強風で有名な峠」と書かれている峰の茶屋は朝日岳と茶臼岳にはさまれた風の通り道となっていて、雪が吹き溜まっていることも予想されます。さっさと抜けなくては。

森林限界を越えて雪と岩の斜面になったあたりから風の力は半端ではなくなってきました。後ろ(西)から吹く風は強弱のリズムをもって叩き付けるように我々を襲い、2人分の沢装備を担いでザックの大きな私は背後からザックごと前に持っていかれそうになります。飛んでくる雪が痛くて風上側を見ることはできず、手袋をしていない両手も凍傷手前の痛さでしたが、最後は登山道沿いの鎖にしがみつくようにして稜線上の峰の茶屋跡避難小屋に辿り着きました。小屋の中には単独行らしい登山者2人が進むも引くもならないという感じで退避していましたが、待っていても風が収まる保証はないので我々は5分休んだだけですぐに暴風の中に飛び出しました。

稜線の風下側なら風は弱まっているはずという我々の甘い目論見はものの30秒程で打ち砕かれ、何度も身を屈めて風をやり過ごしながらじりじりと下ります。崖から転げ落とされないよう道の山側にへばりつくようにして徐々に高度を下げ、尾根筋を回り込んで森林限界の下に入ったところでようやく人心地がつくようになりました。2人とも雪山経験はそれなりにある方ですが、それでもこれほど厳しい風の中を行動したのは記憶にありません。不安には思わないにしても一つ間違えれば生命にかかわるくらいの自然の猛威だと感じました。

森林限界から下、ロープウェイ山麓駅までは普通に歩くことができる楽な道。登ってくる登山者たちに「道はどんな感じですか?」と聞かれるたびに「風が凄いです。無理だと思ったら引き返して」とアドバイスし続けましたが、あの三斗小屋温泉に泊まっていた人たちのことが気になって仕方がありません。小さい子供を連れた家族連れもいたし、明らかに雪山装備を持っていない湯治客もいたのですが、果たして無事に下山できるのでしょうか?


こうして今年の「草鞋納め」は「紅葉見物→寒中耐風訓練」に化けてしまったわけですが、これで今年の沢登りが終わりかと思うとなんだか不完全燃焼です。もう季節は冬山へのトレーニングの時期ですが、草鞋納めのし直しをしようかどうしようかと思案投げ首……。

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